2017.10.17
サブカルチャー特集 共同編集者インタビュー
「ゴール」がないところに「カルチャー」は生まれるのかもしれない
- Credit :
- インタビュー・文 / 土門 蘭、 撮影 / Kim Song Gi
四条烏丸に、《VOU / 棒》という空間がある。
雑貨屋とかセレクトショップとかギャラリーショップとか、いろいろ言い方はあるのだろうけれど、VOUを初めて訪れたとき、そのどれとも違うなと思った。何だろう、と考えているうちに、
……家?
と思った。
煙草屋さんや駄菓子屋さんって奥に誰か住んでいて、お店と家の境界が曖昧な感じがしたけれど、そんな感じだ。
パブリックスペースなんだけどプライベートスペースにうっかり足を踏み入れてしまったような、「お店」に「家」が浸食しているような、あの危うさ。
VOUの中にはZINEや、食器や、Tシャツや、キャップや、いろいろなものが置いてある。
そのどれもが初めて見るようなものばかりで、ひとつひとつがすごい存在感を放っていて、私は戸惑いながら店内をうろついて、うろついて、結局何も買わずに外に出た。
何かを買おうと思ってその日はVOUに来たのだ。取材の前だから、ひとつ何かを買って、家に持ち帰って使ってみようと。それでまた新しく質問が出てくるかもしれないし、何か一個買ってみよう。そう思っていた。
でも、できなかった。欲しいものがなかったからだろうか? と考えて、違うなあと思った。
「わからないのに買う」ということが、できないのだ。それは恥ずかしいことだから。だから、買うためにはわかるまで通わねばならないのだろう、と思った。
取材中、岩崎君も同じようなことを言っていた。
ー悔しいんだけど、初めて行ったときにはまだ、VOUの魅力がわからなかったんですよ。「なんか、ようわからへんな」みたいな。(中略)でも、2回3回と行くうちに、「これめっちゃおもしろいんじゃないかな」って思い始めて。それであるとき、堰を切ったように商品を買い出してしまったんです。
今マガザンでは、VOUと共同編集のもと、『サブカルチャー』という特集が組まれている。マガザンに入ってみると、そこも「家」だ。引き出しがあって、物干しがあって、布団(!)が敷かれていて、ラジオがかかっている。
「最初みんなきょとんとするんですよ。ここ誰か住んでるんですか? って。でもチェックアウトするころには馴染んで、何か気に入って買って帰ってくれるのね。この布団は売り物じゃないけど、ほんまに昼寝する人もいるよ。二階の宿泊スペースに持って上がって使う人もいたし」
そう岩崎君が言うと、「へー」と川良君が笑った。川良君はVOUの店長。今回の『サブカルチャー』特集の共同編集者だ。
「もともとVOU自体、家っぽくしようと思って作ったんです。自分の文化的な初期衝動が、先輩の家で起こったものだったので。先輩ん家でかかっている音楽とか、壁にかかった服とか、本棚にある本だとかを見たときの、こんなかっこいいもんあるんや! っていう衝撃を受ける感じがずっと残っていて。そういう感覚がある空間にしたいなって思って作ったのがVOUなんです」
実際、いま川良君はVOUの二階に住んでいるのだそうだ。「VOUに入ったら、川良君のにおいするもんね」と岩崎君は言う。
岩崎君はマガザンを始める前、Buddy toolsという雑貨屋さんを四条烏丸でやっていた。そのお店の跡地にできたのがVOUだ。それもあるからだろうか、年齢が1個違いのふたりは、先輩後輩みたいでもある。
「正直、VOUの魅力を言語化するのは野暮なことなんじゃないかなって思っているんだけど、それでもちゃんと言葉にして残したい」
そんな岩崎君の言葉から、今回の対談は始まった。
マガザンという箱に、VOUがもう一個部屋を作ったような『サブカルチャー』特集。岩崎君の家なんだか川良君の部屋なんだかわからない空間で、「VOU」のモノグラム布団の上に座って、ふたりは話をし始めた。
目次
Buddy toolsとkara-S時代
- 土門:
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二人が出会ったのはいつ頃なんですか?
- 岩崎:
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初めて会ったのは3年くらい前かな。四条烏丸にあるCOCON KARASUMAっていう建物の中に、僕が前勤めていた会社のオフィスがあったんだけど、その下の階にkara-S(カラス)っていうお店があって。その店長が川良君だったんです。
- 川良:
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kara-Sっていうのは精華大学の施設で、ショップ・ギャラリー・スタジオがある空間なんですけど、そこのショップスペースの運営を僕がやっていたんです。
僕、大学時代にお店を作るゼミに入ってたんですよ。そこでZUURICH(ズーリッチ)っていう名前でプロジェクトを始めて。それが結構うまくいって、在学中に京都市から支援を受ける形で、一年契約でお店を運営していたんです。その活動を大学の人が見てくれていて、卒業後にkara-Sでもやってみないかと声をかけてもらって、5年間運営をさせてもらっていました。 - 土門:
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川良君がZUURICHという名前で、kara-Sの運営をしていたということですか?
- 川良:
-
そうですね。ZUURICHは僕の個人事業主としての屋号で、VOUもZUURICHがやってます。
- 岩崎:
-
で、川良君がkara-Sにいた時、僕は会社員しながら副業で、Buddy toolsっていう雑貨屋さんをやっていたんです。「相棒が見つかる雑貨屋さん」っていう店だったんですけど。
- 川良:
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もともと僕、そこに何度か行っていたんですよ。でも店頭で岩崎さんと会ったことがなくて。岩崎さんがBuddy toolsの人だってことも知らなかった。
- 岩崎:
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平日は会社員だったから、お店にあまり立ってなかったんだよね。
- 川良:
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それである日、COCON KARASUMAのテナント同士の交流BBQに、僕も岩崎さんも参加していて話す機会があって。それで話しているうちに、「この人、Buddy toolsの人なんや」っていうことを偶然知ったんですよね。
- 岩崎:
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そう。それで僕も、kara-Sに行くようになって。で、そのあと川良君から、kara-Sとは別に自分の店を出したいから今物件を探しているんだっていう話を聞いて。僕はちょうどBuddy toolsを閉めようとしていた時だったから、じゃあその跡地に来る?って話をしたんだよね。
でも、どんな店やるの? って聞いても、正直最初よくわからなかった。それが今こんなふうになっていておもしろいなーって思ってます。
自分はカルチャーを作っている、という自覚
- 岩崎:
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初め、VOUのグラフィックって川良君が全部自分で手を動かしてやっていると思っていたんですよ。でも本当は、友達とか身近なクリエイターを巻き込んでやっているんだって知って、「あ、僕とスタンスが近いかも」って思いました。
- 川良:
-
そうですね。基本的に僕が手を動かして作るってことはないです。周りの友達とかに作ってもらってますね。
- 土門:
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これまでに川良君自身が作品を作ったりとかは?
- 川良:
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もともと大学ではデザイン学部だったんで、ちょこちょこ自分で手を動かして製作もしていたんですけど、単純に挫折しました(笑)。周りの人のほうがずっとおもしろかったし、かっこよかった。それで、これから自分ができることって何やろって考えて、自分で作るよりも人の作品を発信する立場になろうって思ったんです。
当時からノリノリで作っている人もいたけれど、逆に、めっちゃ才能あっておもしろいのに、日の目を浴びることができなかったり、プレッシャーに負けたりして、全然作れなくなってく子もやっぱりいて。偉そうですけど、そういう人たちを救えたらいいなっていうのは、ずっと思ってました。僕自身も作ることはしていたから、作家さんの立場もある程度わかるし、向こうも本気でやるなら、僕も一緒に本気でやりたいなって思っていて。 - 土門:
-
作り手として挫折したとき、まわりの才能ある人に嫉妬したりやっかんだりしないで、そういう視点の転換ができたのは、すごいですよね。
- 川良:
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単純に作家をサポートしているだけだったら、「俺は結局裏方やなあ」って思うと思うんですけど、僕は「店を作っている」つまり「カルチャーを作っている」っていう自覚があったんです。だから卑屈になることなくできたのかなあと思いますね。
「こいつら何をしでかすかわからへんな」っていうものとしていたい
- 岩崎:
-
なんか……川良君って話してるときのテンションと内容が全然合ってへんよな(笑)。ぼそぼそ言ってるんやけど、よく聞いたらめちゃ熱い。
- 川良:
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えっ(笑)、そうですか。初めて言われました。
- 土門:
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ごめんなさい、それは私も話しながら思ってました(笑)。
- 岩崎:
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川良君って、言葉じゃなくて作るものでその熱さを出している気がする。っていうのも、VOUがBuddy toolsの跡地にできるとき、川良君からやりたいことは聞いていたんだけど、何をするのかちょっとわかんなかったんですよね。
「おもしろいものを作っている友達の作品を集めた、雑貨屋さんみたいなのをやりたいんです」みたいな言葉だったと思うんだけど、オープニングのときに行っても、VOUの魅力がわからなかったんですよ。「なんか、ようわからへんな」みたいな。多分わかる人はいるんですよ。川良君に近しい人とか、もともと近くで活動を見ていた人とか。
ただ、0の状態でいきなりそこに入ったときに、「この空間は何なんだろう」って、ちゃんと消化できなかった。でも、2回3回と行くうちに、「これめっちゃおもしろいんじゃないかな」って思い始めて。それであるとき、堰を切ったように商品を買い出してしまったんです。
女の子で例えると「あれ、あの子あんなに可愛かったっけ?」って途中で気づく、みたいな。余計気になったりするでしょ。この例えどうなんかわからへんけど(笑)。 - 土門:
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や、よくわかりますよ(笑)。私もこの間初めて行ったんだけど、正直言って「よくわからないなあ」って思いました。よくわからないので、買えない。消化できないから、消費もできないっていう。だから私も、すごすご帰りながら、「あれはいったい何だろう」って思ったり。
- 川良:
-
へー、そういうふうに見えていたのか……。
- 岩崎:
-
うん。それって、僕のこれまでの仕事と逆なんですよね。僕の仕事の流れをざっくり言うと、まずコンセプトを決めて、それに沿ってみんなで枝葉を整えていくって感じなんです。
でもVOUは、そういうのを軽々と超えている気がする。僕から見ると、VOUはノーコンセプトに見えるんだけど、すごい世界観に溢れているように見える。ムードのある悪ノリみたいな。それが魅力的だし、それを世の中が求めているような。 - 土門:
-
魅力が言語化できると、価値を頭で理解できるじゃないですか。「なるほどそういうことか。それはいいね。じゃあ買おう」っていう流れ。さっき言った、消化から消費への流れです。だけどVOUはよくわからないから、買うことができないんですよね。VOUで「買う」ことは、普通の「買う」っていう行為と違う気がする。
- 川良:
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僕、「こうすればこうなる」っていう予定調和があまり好きじゃないんですよね。一言で表現できるコンセプトがあって、そこに来たお客さんが満足する、っていうのが通常の流れだと思うんですけど、僕はもっと「何これ?」って気持ちにさせたいって、ずっと思っているんです。そういうもののほうが、ずっと成長できるし変化できる。ゴールが決まってしまうと、そこで止まってしまうように思うんです。
「こいつら何をしでかすかわからへんな」「次は何するんやろ」っていうものとして存在していたい。その上で、お客さんと一緒にその空白を埋めていきたいなって。いいようにいったらもちろんいいけど、悪いようにいっても別にいい。それをみんなで解決していったらええやんっていう感覚で。
お客さんもただ提供されたものを受け取るだけじゃなくて、VOUの活動自体を一緒にやる感覚。そのほうが楽しいんじゃないかなって思っているんです。 - 岩崎:
-
それ聞くと、マガザンと共通しているところがあるなあって思う。アプローチが違うだけでね。
マガザンもこんなふうに共同編集って形で人と人を掛け合わせることで、新しい生態系を生み出したいって思っているんです。だから僕も「いかに余白を残しておくか」を大事にしていて、それでこそ予想を超えるようなものが生まれる、みたいなことは考えてます。
「物と金」ではない、「作家と僕」の関係性
- 土門:
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岩崎君はとにかくまずは「人」って考え方ですよね。人と人とが集まって、そこから何が生まれるか、っていう。一方で川良さんはどうですか? 作品がすべて、作品が良ければ置くってタイプではなさそうですけれど。
- 川良:
-
もちろん作品自体も大事なんですけど、作品だけではだめだって思っています。作品だけだと、ただの物と金のやりとりになってしまうから。それはお互いにとって幸せじゃないなって思うんです。
一番大事なのは僕と作家の関係性で。同じ方向を向いて、一緒に頑張って、その上で作品を取り扱わないと、本当に消費だけされておしまい、ってものになってしまう。だから、自分は作家との関係をしっかり作った上で、やりとりをしようと思っています。 - 岩崎:
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この間、僕も大作さん(注1)のアトリエに行ってきましたよ。山中越まで。
(注1)大作さん…林大作。1986年京都生まれの陶芸家。「DAISAK」というブランド名で、イラストを転写した陶器を製作。VOUが取り扱う代表的な作家のひとり。
- 川良:
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あ、そうなんですね。大作さんなんてすごく良い例で。大作さん、大学院卒業しはったばかりのころ、全然自分の作品売れなくて、陶芸のコミュニティにもなかなかなじめなくって、これでやっていけんのかな、ってすごい悩んではるときに出会ったんですよ。
僕はそのとき作家物を取り扱うセレクトショップをやっていたから、「一度作品を見てほしい」って言われて。それですぐアトリエに行ったら、めちゃくちゃかっこよかったんですよね。それで、「一緒に頑張りましょうよ!」ってなって。
それからお互いに悩みとか、「こうしていったらいいんじゃないか」とか話し合いまくって。最初の二年とかまったく売れなかったんですけど、地道に続けていたらちょこちょこ売れるようになっていったんです。それで、東京でも個展するようになって……。 - 岩崎:
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とうとうJOURNAL STANDARD(注2)に行き着いた、と。
(注2)JOURNAL STANDARD京都店のリニューアルに際し、VOUがJOURNAL STANDARDとコラボレーションしグッズを販売。大作さんは、JOURNAL STANDARD京都店のマスコットキャラクターとして、巨大な牛『ウシ公』を製作した。
- 川良:
-
さすがに、JOURNAL STANDARDのレセプションのときには、ふたりして「結構来たな…」みたいな気持ちになりました(笑)。
- 土門:
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良い話だなぁ。
- 岩崎:
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まさに、予定調和をぶち壊しているよね。でないと、あの牛は生まれない(笑)。
「ちょっと最近アイデンティティ見失ってるんじゃない?」
- 岩崎:
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VOUは、これからの展望って何かありますか?
- 川良:
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それが最近めっちゃ悩んでいて。僕、結構悩み込んでしまうタイプなんですけど。
- 岩崎:
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うん、川良君ってよく悩むよな。おもしろいことしてるのに。
- 土門:
-
そうなんですか(笑)。
- 川良:
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アート作品とか、作家性の強いものって、やっぱり売るのが難しいんですよね。
それでも最初は「VOUにある物なんだからイケてる」って思われるくらい頑張ったらいいんじゃないかと思ってたんですよ。それでこれまで頑張ってきて、BEAMSに商品を卸させてもらったり、JOURNAL STANDARDで特設のブースを組ませてもらったりすることができた。
京都を拠点としながらも東京まで届けるっていうのは、僕がもともとやりたかったことなんです。内々になるんじゃなくて、外に向けていくっていうのはすごく意識していて。そしてそれが実現できて、新しくお客さんになってくれた方もたくさんできました。
でも最近何だか、VOUっていう名前だけが大きくなっていっているようで、中身がついてきていないような気がしているんですね。根本的な問題が解決していないなって思っていて。それでもう一度初心に戻って、作家さんとどういうふうに関係を育んでいくのか、考えなあかんなあって思ってるんです。
周りにも結構言われるんですよ。「最近のこの状況、どうなん?」みたいな(笑)。 - 岩崎:
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ははは。めっちゃシビアな意見。
- 川良:
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「ちょっと最近アイデンティティ見失ってるんじゃない?」とか。でも、それ言ってもらえるのはすごいありがたいんですけどね。はっと気づかされることばかりなので。それに、そう言ってくれる人は初期からずっと見守ってくれている人で、それだけ期待してくれているということだから、ちゃんと応えたいんですよね。
- 岩崎:
-
でもそれは、具体的にどういうふうになってったらOKなんやろ。
- 川良:
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アーティストが自分が本当に好きなものを作る。それを僕が世に出してお客さんに届ける。単純に、そういうシンプルな流れを作りたいです。それでいて、もっとおもしろいものを発信していきたいですね。
- 土門:
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岩崎君は悩みとかないんですか?
- 岩崎:
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それがどんどんなくなっていってるんですよね。悩み。
多分、VOUとマガザンはアプローチが逆なんです。僕の場合、最初に描いていた絵がある。それが順調に埋まってきていて、余白で残したいなってとっておいたところも、ちゃんと余白として残ってある。それに比例するようにお金も生み出せているし。
でもこのままだと僕、おもしろくなくなってしまいそうやな、っていうのは思ってます。あえて言うなら、それが悩み。 - 土門:
-
その絵が、完成してしまうってこと?
- 岩崎:
-
そう。今日もその一部が埋まった瞬間でもある。
- 土門:
-
絵が完成したら、また新しく描き始めるのかな。
- 岩崎:
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どうでしょうねえ。できあがったら、またそれは考えようって思ってます。
これまで形にできなかった思いが、今の場所に発散されている
- 土門:
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今回の特集名は『サブカルチャー』ですけど、それはどっちがつけたんですか?
- 岩崎:
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僕です。でも、「VOUはサブカルなんですよ」ってことが言いたかったわけではなくて、伝わりやすくするために、あえてこの言葉を選びました。常に王道、メインストリームを走っているわけではなくて、自分の道を走っているみたいな。僕自身、VOUに対して、メインになってほしいけどメインになってほしくないみたいなところがあるんですよね。それが『サブカルチャー』って言葉ににじみ出てると思う。
- 川良:
-
僕自身『サブカルチャー』って何なのか、あまりわかってはいないんですよ。ただ、自分たちは絶対にぶれないっていう気持ちはある。そして、でかくなれるものならでかくなりたいなって気持ちもあります。
だけど、他の人にいじられて変わっていって、結果大きくなるっていうのは全然望んでいない。いちばんすごいのは、自分たちのやりたいことを貫き通しながら、多くの人に影響を与えられることだと思うから、それを目指していきたいなって思ってます。 - 岩崎:
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ああ、そっか。さっき仕事の流れが逆だって行ったけれど、今後の展望も、僕たちは逆かもしれない。
僕最初、社員1万人くらいいる大企業2社で働いていたんですけど、そこで大きい仕事をやった感触はあるんですね。でも、もっと「手触り」のある仕事がしたいなあって思っていて。成果として出る数字も関わっている人も多いけれど、だからこそ自分の関与している部分が薄い。それでもっともっと濃くしたいなって思うようになったんです。ないものねだりかもしれないけれど、本当の自分はこうじゃないって、ずっとどっかにあったんですよね。
それでこういう、小さな所に行き着いた。壁一枚、柱一本、どうなっているのかを知っておきたい。全部把握して、丸投げにしたくない。とにかく自分が関わる密度を濃くしていたい。だから僕にとって、マガザンはどれだけ小さく濃くいられるか、が大事なんです。 - 川良:
-
ああ、僕も、前の職場でできなかったことを今にぶつけている感覚はあります。自分もkara-Sで5年働いて、そこは僕にとってとても重要な場所なんですけど、ある意味、そこでできなかったことがVOUになっているんですよね。
kara-Sは大学の名前を背負った店なので、かなり気も遣うし、烏丸のあの立地だから人もどんどん入ってくる。面積も広い。たくさん買ってもらえるけれど、作家の世界観を伝えきれてへんっていうフラストレーションがずっとあって。それがあって、VOUを作ろうと思ったんです。 - 岩崎:
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お互い、これまでの歩みがあって今があるって感じですね。マガザンは場所としては小さくいるけれど、VOUには大きくなってほしいなあ。
- 土門:
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その逆方向に向かう過渡期に出会った感じですね。
- 岩崎:
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川良君っていくつやっけ。
- 川良:
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30歳です。来年の1月で31歳。
- 岩崎:
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30代になったらみんな何かしらの武器を持ちはじめますよね。その武器を持って、自分でRPGの冒険に出られるって感じ。下の世代には、「VOUみたいになりたいな」とか「VOUで取り扱ってもらいたいな」って思っている子はいっぱいいるんちゃうかな。
- 川良:
-
そうだったらすごく嬉しいですね。さっきも言ったけれど、救えなかった作家さんっていっぱいいるから。VOUという存在が、一所懸命ものを作ってる子たちの、何かの可能性になったらいいなと思います。
最後に、「川良さんから見たときに、岩崎君ってどんな人ですか?」と聞いたら、「うーーん…。やさしい人……ですかね」という答えが返ってきた。不意を突かれた岩崎君が「なんか、めちゃやわらかい球返ってきたな」と笑う。
「や、ほんまに。今回マガザンと共同編集させてもらって、僕ずっとわがまま言わせてもらってました。作家さんって、わがままな人多いじゃないですか(笑)。いつもは僕がそのわがままを聞くほうなんですけど、今回はわがまま言わせてもらったなって思っています。
あと、もともと大きい企業で仕事してはった経験が個性になっている感じがします。企画の立て方とかディテールの仕上げ方が凝り固まっていなくて、おもしろいバランスの人だなと」
逆に岩崎君は、川良君のことを「頑固な人」と思っていたらしい。
「ポジティブな意味で、頑固。ポリシーがある人だなって改めて思いました。だから作家さんとして接していたし、川良君にいかに気持ちよく余白を与えてあげられるかをずっと考えてましたね」
今回ふたりの話を聞いていて、「カルチャー」っていうのは、コンセプトとかゴールがないところにできるものなのかもしれないと思った。熱量を積み上げ続けた時に、振り返ってみたら空気としてできているもので、だからこそどうとでも変化できるし、そこで止まらないし、たまに誰も予想もしなかったものが生まれる。
今VOUは、それを期待されているのだろうな、と思う。
来し方もこれから目指す方向も逆のふたりが、すれ違う瞬間にできた『サブカルチャー』特集。岩崎君の家のような川良君の部屋のような不思議な空間は、10月末まで存在している。