2018.01.26

雑誌特集『ホテルニューカジカジ』 共同編集者インタビュー

作り手にとっての愛すべき「今」、読み手にとっての手の触れそうな「未来」

Credit :
インタビュー・文 / 土門 蘭、 撮影 / Kim Song Gi

カジカジという雑誌がある。

関西のストリートファッション誌であるカジカジは、関西の若者にとってはごく身近な雑誌だ。大阪を中心としたショップやブランドが紹介されていて、たまにかっこよくておしゃれな友達がそこに載っていたりする。口には出さないけれど、もしかしたらいつか自分も載れるんじゃないかな、そうなったらいいなって思うような、そんな雑誌。

私がそこで好きなのは「街の眼」というストリートスナップのページだった。

街中に立つ、ファッションを愛している人たちの写真。

はっとするような服、髪型、佇まい。コピーも情報も何も書かれていない、スナップ写真だけのページは、めくっているとそこだけ無音になる感じがした。

街の中に、まるで希少な一個の植物とか動物みたいに立っている彼らの眼を見ていると、ファッションは自分の核を表現する大事なものなんだなということを感じる。そして、こんなに自由に楽しんでいいんだなってことも。

2017年11月、もし雑誌がホテルになったら? というテーマのもと、『ホテルニューカジカジ』が期間限定でマガザンキョウトに誕生した。

カジカジの編集長の羯磨さんと「この〝ニュー〟っていうところがカジカジらしいですよね」という話をする。別に〝ニュー〟なんていらないのだ。でも、つけてしまう。それで何だか笑えたり、おもしろくなったり、味が出たり、わくわくしたりする。ああ、雑誌っぽいなと思った。「雑誌とは何か?」に対する答えのひとつが、この〝ニュー〟なのかもしれないな、なんて。

ホテルニューカジカジには、カジカジおなじみの様々なブランドグッズが並んでいる。
そのひとつひとつが何とも言えない空気感を醸し出し、空間にグルーブを産んでいる感じ。
足を踏み入れると「カジカジだ」と思う。カジカジを経験するってこういうことなのかと。

20年以上にわたり読まれ続けてきたカジカジは、時代に合わせてテイストを変えたり、月刊から隔月になったりと変化を続けてきた。でも、核となっているところはやっぱり変わらない。紙から空間に飛び出したとしても。

「雑誌」って何だろう? 「編集」って何だろう?

その問いに対する答えが、今回の企画を振り返るふたり……紙のカジカジと空間のマガザン、それぞれの編集長同士の対談から浮かび上がる気がしている。

やっぱり正直、紙は厳しいという話。

岩崎: 

羯磨さんはもともとカジカジでモデルされてたんですよね?

土門: 

えっ、そうなんですか?

羯磨: 

そうなんですよ、もともとはモデルとして誌面に載る方で。で、ある時「編集部で人が抜けるから来ぉへんか」って言われて、そっから編集側になったんです。

土門: 

いつからカジカジの編集長をされているんですか?

羯磨: 

初めて編集長になったのは2012年ですね。でもそのあと2015年に『SEVEN HOMME』っていう、カジカジのハイブランド版の雑誌の編集部に移籍したんです。それから1年も経たないうちにまたカジカジに戻り、今に至ります。

土門: 

2回目の編集長なんですね。1度目のときとは、カジカジの編集方針って何か変わりました?

羯磨: 

最初に編集長に就任したときは、服だけでなく、より間口を広げたというか。「ファッション」というワードが雑貨やインテリア、コーヒーをはじめとした飲食物など、ライフスタイルを指すような空気感があったんですよね。で、ウチの取材対象となるショップさんも服以外のものをセレクトしていたり。なので、服以外の要素が必然的に増えましたね。

ただ、今は原点に戻る、じゃないですけど、より「服」を強調しています。自分もそうですが、やっぱりみんな一番は服が好きやと思うし。

土門: 

ずっと月刊で出されていたけれど、途中で隔月になっていますよね?多分羯磨さんが戻られたタイミングだったかと思うんですけど。隔月になった理由って何だったんでしょうか。

羯磨: 

やっぱね、正直どこの雑誌もそうやと思うんですけど、紙は厳しくて。特にうちは地方誌ですし、ファッションの広告がとれにくくなっているんですね。で、よくどの業界でも売り上げの下がるシーズン、二八(にっぱち)って言いますけど、雑誌も2月と8月売れないんですよね。

岩崎: 

あ、雑誌もそうなんですか。

羯磨: 

そうなんですよ。どんだけ売れたとしても広告入らへんから、赤字が見えてる号なんです。だからうちでも、その2号なくす?なくさへん?みたいな話をもう、10年くらいやっていて。結局、採算合わない号はもうなくそうって話になって。

土門: 

2月と8月以外も。

羯磨: 

そう。それで隔月になったんです。

土門: 

半分になった分、他のことに力を入れるようになったんでしょうか。

羯磨: 

名古屋の『N:BOOK』とか福岡の『F:BOOK』とか、地方のMOOKを作り始めたのがこの時期ですね。つまり、カジカジが2ヶ月に1号になった分、MOOKを増やしたんですよ。だからそんな暇になってない(笑)。

で、MOOKはよく売れるんですよね。飲食の雑誌はよくあるんですけど、こういう、地方都市のファッション雑誌ってあまりないので。カジカジの地元版みたいな感じですよね。

岩崎: 

読ませてもらいましたけど、内容の密度高いですよね。

羯磨: 

件数も多いし、広告も多い。あとやっぱり楽しいですよね。地方行くと、飲み屋が。

土門: 

飲み屋が(笑)。

羯磨: 

現地の取材って、長くて2週間くらいで一気にするんですよ。7畳くらいの1Kの部屋を借りて、男3人でぎゅうぎゅうになって寝泊まりしながら。だから結構ひどいですよ。誰がお風呂の排水溝そうじすんねんみたいな(笑)。

岩崎: 

このMOOKもカジカジ編集部と同じメンバーで編集チーム組んだんですか?

羯磨: 

そうです。外注さんも一緒。で、各地方で顔の広い方とか、インフルエンサーみたいな方にアドバイスをもらったりしながら作っています。

岩崎: 

さっき広告の話が出ましたけど、やっぱり雑誌にとって広告の売り上げってでかいんですか。雑誌本体の広告だったら、売り上げの比率はどんなもんなんでしょう。

羯磨: 

売り上げとしては広告の方が比率高いですよ。今の時代、配本に対して6割売れたら「めちゃくちゃ売れたな」って言われるくらい。

土門: 

では、半分売れたらいいくらいの。

羯磨: 

そうですね。でもこのMOOKは7.5割までいったんで、本当によく売れました。MOOKだとバックナンバーも含め長く置いてもらえるっていうのも利点かもしれないですね。

カジカジは「イケてる友達が載ってる」雑誌

土門: 

そもそも、カジカジとマガザンが組むきっかけって何だったんですか?

岩崎: 

ファーストコンタクトは取材です。唯一、マガザンキョウトのオープン前に取材に来てくれたのがカジカジさんだったんですよ。ほんと、瓦礫しかないようなときに。建物できてないし、商品も何もないのに、イメージカットばかり使って見開きで紹介してくれたんですよね。

高松(カジカジ編集部): 

岩崎さんに連絡したら「まだできてないですけど、取材いただけるならパワープレイでお願いします(笑)」って言われました(笑)。

岩崎: 

あまりにここが工事現場すぎて、物撮りも僕の家でやりましたよね(笑)。それが初めて会ったときだったんですけど、でももっとそもそもの話をすると、僕は大学生のときカジカジの読者だったんです。同級生のかっこいいやつ、かわいい子が読者モデルで毎号載ってたりして、たまーに我々ぺーぺー組も載ったりしてね。それをみんなでわいわい言いながら見てたりとか……。

土門: 

知ってるお店や友達が載ってるって、すごく身近な雑誌ですよね。

羯磨: 

テレビで知ってる店紹介されるとつい見てまうでしょ。まさにカジカジってそんな感じで、読者に近い雑誌なんだと思います。

岩崎: 

それの原体験がすごく僕の中に残ってたんですよね。僕はここで「泊まれる雑誌」ってコンセプトでやっているけど、紙媒体の雑誌って一度も作ったことないんですよ。それでずっと勉強したいなって思っていて。

実際、いまだに雑誌の編集の方に取材されるたび、すごく緊張するんです。「雑誌編集者の目から見たとき、このマガザンっておもろいんかな」っていうのがわからへんから。で、いちばん勉強になるのは何か一緒に作ることじゃないかなって思って、「一緒にマガザンで雑誌特集やりましょう」って、オープンしてすぐに企画書を渡しました。

土門: 

あ、企画自体は結構前からあったんですね。

岩崎: 

そう。あれから1年越しの実現ですね。

土門: 

結構間が空いたのはどうしてだったんですか。

羯磨: 

まず人手が足りていなかった。あと、2、3ヶ月とかの長い期間こういう展示販売をやるってやったことなかったんで、「売れるんかな?」というのはありました。でも、おもしろそうやしやろかってなって。

岩崎: 

色々企画を進める中で「これ実現できるんかな?」というのが出てきたタイミングで、カジカジ編集部に「とにかく物を送ってください!」って言ってたんです。こっちでなんとかするからって。それでわちゃーって送ってもらって、マガザンチームで陳列したりサービスに組み込んだりしたんですよね。

羯磨: 

うん。それで実際並んでいるの見て、「あ、イケてるな」って思いました。

土門: 

物を送って並べるだけで、なんかカジカジっぽい雰囲気になるってすごいですよね。

ホテルの中ではカジカジおなじみのブランドアイテムを展開。購入も可能。

羯磨: 

いろんなお店さんから商品を卸してもらってますけど、どれにも共通したものがあると思うんですよね。何というか、笑えるとか、おもろいとか。例えばこの便所スリッパ。「BOKUHA TANOSII(ぼくは楽しい)」って書いてあるんですよ、ただの便所スリッパやのに。

土門: 

(笑)

岩崎: 

なんか、ちょっと変なん多いですよね(笑)

土門: 

商品を選ぶ基準とかはあるんですか?

羯磨: 

うーん、口にすると難しいな。なんやろう。カジカジっぽいって何? とかよく聞かれるんですけど……しいて言うなら「あったかい」かな。

土門: 

あったかい。

岩崎: 

確かに。あと、かっこよさの中に絶対ちょっとおもしろさが入っている感じですね。

羯磨: 

かっこよさのほうが少ないかもしれへん。あ、このタオルにはうちの感じがよう表れているような気がします。「ホテルカジカジ」じゃなくて「ホテルニューカジカジ」なところですよね。なんか、ちょっと抜けてて。いらんけど欲しいな、みたいな。

ホテルニューカジカジ限定のコラボタオル。ホテルでよく使われる大阪産の泉州タオルは拭き心地も抜群。両色とも¥400。

「スナップ撮ってくれって言う子は撮らへん」

羯磨: 

あとはもう、カジカジにとって古着はやっぱり重要です。古着の抜け感、こなれ感。カジカジって、「街の眼」っていうスナップをずっとやってるんですけど。

土門: 

あ、マガザンのギャラリーでも、24年分がばーって壁一面に貼られてますよね。

四方の壁全体を24年分の「街の目」で埋め尽くしたギャラリー。

羯磨: 

あれ撮るとき先輩からよく言われたんですよ。「僕を撮ってください」って言ってくるような子は撮らへんでって。

土門: 

へー、そうなんですか。

羯磨: 

他の雑誌でよくスナップ撮影会とかやっていて、うちそれと間違われたりしたんですよね。でも撮ってくれって言う子は撮らへん。そこはメンタリティの部分なんですけど、ちょっと撮られるの嫌やなってくらいの子のほうがいい。

土門: 

じゃあスナップ撮るとき、どういう基準で声をかけてるんですか?

羯磨: 

これはもう、「10年経ってもかっこいい人」。

土門・岩崎: 

お〜。

羯磨: 

あのスナップ、20年以上たって見てもやっぱりかっこいいんですよ。変な人撮ってるよね、ってよく言われるんやけど、ちゃんと見たら全然変じゃない。表面的に派手なだけで、自分のキャラクターを理解してちゃんとその子なりの着こなしをしているんですよね。

土門: 

いや、本当にそうですよね。みんなめちゃかっこいい。

岩崎: 

20年分のスナップ見てると、どれがいつのものかわからないんです。どれ見ても古いなって思わないし、「あ、かっこいいな」って思う。

土門: 

そう。時代に左右されないものがありますよね。でもだからこそ古着って難しいんですよ。セレクトショップで買う新品の服って、もうすでに流行が入ってるし、「これ着とけばOK」みたいな感じで楽なんです。でも古着ってそれがないから。

岩崎: 

古着って、自分の美学とか審美眼で選ぶものじゃないですか。でもブランドものって、それがすでに他の人によって確立されているんですよね。

羯磨: 

最近「古着」って言葉の意味が変わってきているんです。Made in USAの作業着とかスポーツウエアみたいなのを「古着」って呼んでたんですけど、今はブランド古着まで「古着」って呼ばれるようになったんですよね。でもそれはちょっとニュアンスが違って。

土門: 

そうですね。古着って、「流行」とか「ブランド」とかのフィルターがかかっていない、生身の服とシンプルに向き合う、みたいな感じがします。だからこそ、その人のスタイルが出るというか。

羯磨: 

そうですね。僕自身、いいブランド物着てることよりも、スタイルを持っていることのほうが「おしゃれやな」って思います。「街の眼」ではそういう人ばかり撮ってます。

土門: 

カジカジ見てて思ったんですけど、お店や物だけではなく、お店にいる「人」も紹介されていますよね。このスタッフさんめちゃめちゃかっこいいなって思うページがいくつもあって。

羯磨: 

やっぱね、いい店であればあるほど、おもしろい人多いですよ。大手のショップ……BEAMSとかUNITED ARROWSとかも、店員さんすごくイケてたんですよ。でも今は結構みんなフラットになっていて、人気のショップ店員が少なくなった気がしますね。

土門: 

確かにそうかも。最近みんな優しいですよね。昔は服買いに行くの、ちょっと緊張していた気がします。

羯磨: 

だけど個店にはおもしろい店員さんすごくいる。例えば乱痴気さんとか。

岩崎: 

乱痴気さんのキャラクターはすごいですよね。

羯磨: 

あと、ザ モンゴリアンチョップスさんとかね。いつもそこのふたり、ペアルックでいるんです。髪型もメガネも一緒やし、双子じゃないんですけど、双子みたいなんですよね。撮影するときもちゃんとポーズがあるんです。ブランディングがすごくしっかりしてる。

彼らがこのあいだパインアメのライダースジャケットを作ったんですけどね、パインアメの本社にプレゼンに行って。最初は「何言うてんねん」みたいな感じで難色を示されたらしいんですけど、きちんと話を重ねていったら、説得できたんですって。しかもこれ、売れてるみたいですよ。

大阪新世界のザ モンゴリアンチョップスが《パインアメ》とコラボレーションした『パインキャンディーライダー』。

土門: 

すごい……パインアメがぴったり入るポケットもついてるんですね。

岩崎: 

遊び心の中に硬派さがある感じしますね。

羯磨: 

そう。何でもやりそうに見えて、「これはできないです」っていう線引きがしっかりある。そういうお店っていいですよね。

紙媒体から編集力を少しだけずらすこと

土門: 

「紙」のカジカジと「空間」のマガザンが一緒にやってみて、何か気づきみたいなのってありましたか?

羯磨: 

グッズって、単品で見るとイロモノに見えても、こうしてまとまってみると、同じ空気感が漂うんやなっていうのは思いました。この空気感は、東京にもないし、もしかしたら世界にもないんちゃうかなって思う。そういう空気感が表現できる箱を長期間使わせてもらえたのは良い経験になりました。

岩崎: 

僕がすごいなって思ったのは、やっぱり人を集めて動かすパワー。こんな短期間で、こんだけの量の商品を集めたり企画を実現できるっていうのはほんまにすごいと思う。

土門: 

やっぱりそれはカジカジさんとお店さんとの関係性が、ちゃんとできあがっているからですか。

羯磨: 

まあ自分で言うのも何なんですけど、そうなんかな。どこのお店さんもすんなり協力してくれました。

土門: 

雑誌って、情報が素材ですよね。でもその素材に、編集部の「このお店はかっこいいぞ」っていう思いが入っていないと、新しいから・話題になってるから載せただけ、っていうのがすぐ読者に伝わってしまう。そしてそれは、他でもない取材先のお店さんにも伝わると思うんですよ。そこがカジカジさんはちゃんとしているんじゃないかなって思います。

羯磨: 

ああ、そうですね。やっぱりうちが世界観を作っているんじゃないから。いろんなところで生まれている、イケてる世界観を紹介するのがカジカジなので。そういう気持ちでお店さんとは向かい合っていますね。

岩崎: 

こういった編集力とか目利きの力って、紙媒体から少しずらすだけで輝くタイミングってあるんじゃないかなって思っていて。だからこうしてマガザンの「空間」という媒体に出てきてもらったときに、まさにそうなったなっていうのは思います。滞在される方は、本当に隅から隅までこの空間を見てくれるんですよ。雑誌を隅々まで読んでくれてるみたいな。それは「ホテル」という空間の力だと思うし、それが見れてよかったですね。

羯磨: 

うちもね、これを機に「店をやったらおもしろいんじゃないかな」って思い始めたんですよ。

土門: 

わ、それはすごくおもしろいですね。

羯磨: 

マガザンさんは「泊まれる雑誌」じゃないですか。うちがやるとしたら「会える雑誌」。

土門: 

カジカジに載っている物と、カジカジ編集部に会える場所ですか。

羯磨: 

そうですね。そういうのは年に一回カジフェスっていうイベントでしかやっていなくて、動員数も1万人超えているくらい人がよく来てくれるんですけど。常設するのもおもしろいかもなって、今考えてるところです。

岩崎: 

逆に僕は紙媒体の雑誌なんて自分にできないだろうなあって思っていたんですけど、やっぱり紙、やりたくなりました。ただ、やるならちゃんとやりたい。カジカジ編集部に新人として入れてもらえたりしますか?。めっちゃしごかれそうやけど(笑)。

最後に、ふたりにとって「雑誌」って何でしょう?

土門: 

それでは最後にひとつ聞きたいのですが、お二人にとって「雑誌」ってどういうものでしょう?

羯磨: 

雑誌とは……うーん……何やろな。ちょっと、煙草吸ってきてもいいですか? 何か、いい答えが出そう。

土門: 

どうぞどうぞ。

岩崎: 

なんやろ。これは聞きたいですね。

羯磨: 

(喫煙所から戻ってくる)雑誌とは……「アルバム」ですね。

土門: 

アルバム。

羯磨: 

うん、全然かっこよくないですけど。でもね、「街の眼」なんか見てると、やっぱり雑誌はアルバムだなって思うんです。アップデートされながらも、アップデートされる前のものが残っていく。僕はこの人のこういうところに憧れているけど、この人はこういうものから影響を受けて、みたいな。そしてその根底には共通して「オリジナルである」っていうのが流れていて……。そういうのが全部残っていくから、アルバムみたいだなって思いますね。

土門: 

確かに、雑誌を続けて読んでいると、カルチャーの文脈を感じますよね。そこは、ウェブにはない強みだなと思います。

羯磨: 

そうですね。それが僕にとっての「雑誌」かなあ。

土門: 

岩崎くんはどうですか。

岩崎: 

僕にとっての「雑誌」は、「手の届く距離の、すてきな未来を可視化してくれるもの」ですかね。ポイントは「手の届く」っていうところで。自分もこういうふうになってみたいなっていうのを、言語化ではなく可視化して見せてくれるものかなって。だから、きっと羯磨さんとは逆ですよね。羯磨さんは過去、僕は未来。

羯磨: 

ああ、作り手と読み手の感覚の違いってそこかもしれないですね。僕は未来を見越して作っていないんですよ。常に「今」を残していっているのがカジカジなので。

岩崎: 

作り手の「今」に、読み手は「未来」を見るということかな。

土門: 

そしてそれが「過去」になっていく。それが雑誌の底力かもしれないですね。

羯磨 雅史

カジカジ編集長

1982年滋賀生、大阪在住。関西のストリートファッション誌・カジカジの編集長。カジカジにはモデル時代を経て編集部に所属。並行してローカルシティブック『F:BOOK』(福岡)、『N:BOOK』(名古屋)も編集制作している。3児の父。

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    土門 蘭

    1985年広島生、京都在住。小説家。インタビュー記事のライティングやコピーライティングなど行う傍ら、小説・短歌等の文芸作品を執筆する。著書に『100年後あなたもわたしもいない日に』『経営者の孤独。』『戦争と五人の女』。

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