- Credit :
- インタビュー・文 / 土門蘭、 撮影 / 横井友希菜(株式会社おいかぜ)
2024年4月、株式会社マガザンは、京都を拠点にWebデザイン、グラフィックデザイン、ITインフラ構築・運用・管理を行う株式会社おいかぜとの業務提携をスタートしました。
マガザン代表の岩崎くんとおいかぜ代表の柴田さんはもともと親交があり、2023年5月にはおいかぜ20周年記念の連載『「はたらくデザイン」をめぐる対話』の第一回にもゲストとして参加。実はその時の対話がきっかけとなって、今回の業務提携へと至ったとのことです。
法人化から7年。これまでさまざまな挑戦をしてきたマガザンにとって、今回の業務提携はどんな意味があるのでしょうか? ここに至るまでのプロセスや思考、今後の展望について、代表の二人に話を聞きました。
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公式Instagram https://www.instagram.com/shinpaku.miki
【イベント概要】
新プロジェクトリサーチ&プラン報告会
酒米農家のお話
〜農と酒にまつわるトーク×酒と肴のある懇親会〜
登壇者:株式会社マガザン代表 岩崎達也
聴き手・フード提供:ライフスタイルイノベーター・写真家 市橋正太郎 (いちはし しょうたろう) @ichihashishotaro_
会場:CORNER MIX @mixkyoto
開催日時:2024年5月19日 (日)⋅16:00~19:00 ※途中参加/退出可能
参加費:無料(フード・ドリンクの追加オーダー別途)
酒:(ノンアルもあります)吉田酒造店、稲とアガベ、御前酒蔵元辻本店、山名酒造他
肴:夏野菜の粕汁、兵庫県三木市産のお米を使った肴他
目次
岩崎達也
1985年生、兵庫県三木市出身、山田錦農家の長男。京都市在住。京都精華大学非常勤講師。2016年株式会社マガザンを創業。複合施設マガザンキョウトにて、雑誌の特集のようにシーズン毎に空間で様々な企画を展開。2022年食の循環プラットフォームCORNER MIX を開業。ローカルカルチャーの体験価値を拡張する挑戦を続けている。京都起業家大賞優秀賞等を受賞。同賞審査員。京都発脱炭素ライフスタイル2050メンバー。
柴田一哉
1977年京都府生まれ。ITインフラエンジニアを経て、2003年に京都市で株式会社おいかぜを設立。プロダクション(Webデザイン・グラフィックデザイン)、ITインフラ(サーバ・ネットワーク)、はたらくデザイン(業務改善・コンサルティング)の3事業を展開し、2023年に設立20周年を迎える。「だれかのおいかぜになる」をタグラインに、テクノロジーとデザインの領域を横断しながら、クライアントの課題に日々向き合っている。
「おいかぜとマガザンが一緒になる未来がある」
ー「『はたらくデザイン』をめぐる対話」でお二人が対談したのが昨年の5月でした。その後1年も経たないうちに、2社間で業務提携が行われることになったそうですが、そこに至るまでの経緯を教えてもらえますか?
- 岩崎:
-
あの対談記事には書かれていないのですが、実は対談の最後に僕がポロッと「おいかぜとマガザンが一緒になる未来があると思っています」って言ったんですよね。
- 柴田:
-
うん、言ってましたね。
- 岩崎:
-
それまでにもおいかぜさんとは、ウェブサイトの制作などで何度か一緒にクライアントワークをしたことがあって、組織同士の相性がいいということはわかっていたんですよ。それに当時はマガザンが抱えるプロジェクトがどんどん増えて、ディレクションの負荷も上がってきている時で。おいかぜチームと組めたらいいなぁと思っていたのが、あの言葉になったんだと思います。
- 柴田:
-
あの時は僕にはあまりリアリティがなくて、「岩崎くん、おもしろいこと言ってるな」くらいの感じだったんです。でも、その数ヶ月後かな。別の案件で打ち合わせをしている時に、突然岩崎くんが「業務提携のネーミングを考えてきたんですよ」ってアイデアをプレゼンし始めたんですよ。全然関係ないミーティング中なのに(笑)。「あ、この人本気やったんや」と思いましたね。
- 岩崎:
-
そのネーミングは今は表に出していないんですけど、要は「経済の流れの中にいつつも、ワクワク感やおもしろさ、文化的な豊かさを大事にし続ける」っていう意味合いを込めたんです。おいかぜもマガザンも、その理想を追っている点で共通している気がしたので。2社の未来を妄想し続けていたら、そこまで行ったんですよね。
- 柴田:
-
そこから僕も業務提携に真剣に向き合い始めたんですけど、僕自身もマガザンさんとは一緒にやれるイメージはありました。まず、ここの二人……僕と岩崎くんが一緒に仕事をしやすいので、組織同士でもうまくいくんじゃないかな、と。
感性だけでなくロジックも持てると長続きする
ーその「一緒にやれる」という感覚の根拠はなんだったんですか?
- 柴田:
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2社で一緒にMIX BIKEを作った経験が大きかったですね。電力を一切使用せずに、ペダルを漕ぐ運動の力だけでミックスジュースをつくれるマシンなんですけど。
- 岩崎:
-
もともとマガザンがミックスジュースの店「CORNER MIX」を作るときに、おいかぜの社内プロジェクト「こどものためのでざいんぷろじぇくと ワワワ」と一緒に、何かおもしろいことができたらいいですねって話していたんです。
その時マガザンには「漕いだらジュースができる、環境に優しくて大人も子供も楽しめるマシンを作りたい」というアイデアがあって、おいかぜにはそれを作るリソースがあった。その2つが合わさって実現したのが、MIX BIKEだったんですよね。
- 柴田:
-
あれは一つの試金石でした。見積も納期もわからない、儲かるかどうかもわからないことを、「おもしろい」という理由だけで一緒のテンションで作れたのは貴重でしたね。大切な助走期間だったように思います。
- 岩崎:
-
本当にそうですよね。以前、柴田さんに「お互いに言語化と構造化をしようとするから付き合える」って言われたことがあるんですよ。「これ、めっちゃおもしろい!」という感覚やセンスだけで終わるんじゃなくて、「なぜこれがおもしろいのか?」という言語化・構造化まで行うから、きっと長く付き合えるって。
- 柴田:
-
感性だけだったらいつかズレてくると思うんですけど、ロジックまで行けるとすり合わせができるから、長い目で見てもやっていけるはずなんですよね。
それって、おいかぜが主要としている制作の現場においても、とても大事なことなんです。企画やプロデュースなどのいわゆる上流が感性だけで進められると、下流である制作現場がしんどい思いをする。でも、マガザンには言語化と構造化というロジックがきちんとあるから、一緒に気持ちよく仕事ができそうだなと感じたんです。
瓶が満杯なら、瓶を2つにすればいい
ー今「上流」「下流」という言葉が出ましたが、2社の役割分担はどのようにされているんですか?
- 岩崎:
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まさに今柴田さんがおっしゃった通り、IT領域の言葉で言うと、マガザンが上流でおいかぜが下流を担当します。プロジェクトの方向性などを固めるプロデュース領域はマガザンが、その後のデザインやエンジニアリングなどのディレクション領域はおいかぜが行うという棲み分けです。
具体的な流れで言うと、営業の部分は2社一緒にやって、受注後はまずマガザンがリサーチや要件定義をする。そこで「何のためにどんなものを作るのか」を明確にして、おいかぜのディレクターチームに進行管理をパスして形にしてもらいます。
- 柴田:
-
営業の場で「こういうふうにマガザンさんと一緒にやります」って言い始めてから、どんどん仕事が取れるようになってきているんですよ。
- 岩崎:
-
今年の1月に提携し始めてから、半年で15件以上の新規案件をいただいていますもんね。
ーそれはすごい!
- 柴田:
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多分、お客さんのニーズに合っているんだと思います。これまでもお客さんからは、おいかぜに対して「上流から下流まで全部やってほしい」という期待を持っていただいていたんですよ。実際、僕自身は上流・下流に関係なくなんでも引き受けてきて、うちが得意とする制作案件だけでなく、その手前のブランディングやコンサル的な案件も組織にリーチさせようとしてきたんです。
でも正直、現場では上流領域が拾いきれていなかったのが課題でした。だけど「マガザンと業務提携する」となると、自信を持って全部ちゃんと拾い切れるようになる。それがお客さんにもわかりやすく伝わったんだと思います。
- 岩崎:
-
逆にうちは、アイデアを出したりプロジェクトの方向性を決めるのが得意な人間が多くて、クライアントからいただくご相談も、制作よりリサーチや事業開発の要素が強い案件が増えてきていました。ただ受注したはいいものの、実際に形にするところでリソースが足りていなかったのが課題だったんです。社内だけではなく、社外のパートナーさんやクリエイターさんと一緒に仕事をすることもみるみる増えていっていたので、このままだとマネジメントやディレクションで行き詰まっちゃうのが目に見えていた。それは早急に解決しないといけないな、と思っていました。
- 柴田:
-
お互いに事業領域を広げないといけないと考えていたけど、新しく部門を作らない限り、もう広がらない状態になっていたんですよね。
- 岩崎:
-
はい。組織を「成長させたい」「変化させたい」と思っても、それは簡単なことじゃない。瓶の中にすでに大きな石が入っているのに、もう一個大きな石を入れようとしても無理ですからね。
- 柴田:
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それをしようとすると、無尽蔵に組織が大きくなっていくだけなので……。でも業務提携だと、単純に2社が接続するだけで領域を広げることができる。お互いの課題が一気に解決できるんですよね。
- 岩崎:
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瓶に新たな石が入れられないなら、瓶を二つにすればいい。軽やかでありながらできることを増やしていく方法として、業務提携というやり方は一つの解なのかなと思います。
遠慮や戸惑いをどう乗り越えていくか
ー社内のリアクションはどうですか?
- 柴田:
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まだ全員がしっかりコミットできているわけではないけど、特にマガザンさんとの接点にいるディレクターやエンジニアは、メリットを感じてくれているんじゃないでしょうか。単純に、新規案件もすごく増えているし。
- 岩崎:
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うちのスタッフも、おいかぜさんと一緒に仕事をした経験から信頼感がもともとあったので、業務提携についてもスムーズに受け入れてくれたように思います。ただ当然のことですが、まだ遠慮と戸惑いはありますね。2社間では、社風も制度も使う言葉の定義も違うので。そこのすり合わせは早々に課題として出てきました。
- 柴田:
-
上流のマガザンは「どこから渡したらいいの?」、下流のおいかぜは「どこまで決まっているの?」というところで、お互いに戸惑っていましたよね。
- 岩崎:
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マガザンは「どうしたらこのプロジェクトがもっとおもしろく価値あるものになるかを考える」ことに時間をかけたいし、おいかぜは「早く要件定義を済ませていいものを作る」ことに時間をかけたい。そこの差がすぐ明確になったので、まずは提携における業務フローを作成しました。
業務フローを「営業フェーズ」「プロデュースフェーズ」「ディレクション・エンジニアリングフェーズ」の3つに分けて、2社間でどんなタスクが生じるかを分解して見える化する。「ディレクション」という言葉一つとっても、マガザンは「品質管理のディレクション」だし、おいかぜは「進行管理のディレクション」が軸だよねと定義づけて、曖昧だった部分を明確にしていきました。
- 柴田:
-
まさにさっき言った構造化と言語化ですよね。それによって、だいぶお互いのスタッフも安心できたんじゃないかなと思います。
- 岩崎:
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そんなふうに最初は遠慮がちに始まりましたが、実際に案件に一緒に携わったスタッフからは、めちゃくちゃポジティブなフィードバックが多いです。シンプルに「スキルの面で勉強になりました」とか、あとは「自分が今まで全然働いてなかったってことに気づきました」とか(笑)。違う環境に身を置くことで別の物差しを知ってもらえるのは、僕としてもありがたいですね。北風と太陽じゃないですけど、僕が直接言ってもなかなか伝わらないことってやっぱりあるので。
- 柴田:
-
それはありますよね。僕もうちのディレクターやエンジニア陣に、物事を大きく動かせる上流の領域を経験してほしいとずっと思っていたんです。その領域に対する理解や耐性が身に付いたらもっと楽しくなるだろうし、クリエイティブにも良い影響が出るだろうなと。でも、僕一人ではそれはなかなか難しかった。それがマガザンさんと組むことで実現できつつあるのはとてもありがたいです。
大切なのは経営者同士のハモり
ー今のところメリットがとても多そうですが、お二人の中では業務提携における不安はなかったのでしょうか?
- 岩崎:
-
やっぱり、スタッフのみんながいい感じに交わってくれるかな?という心配が一番大きかったです。だからまずは、交流が得意そうなメンバーからプロジェクトにアサインして。徐々に馴染んでいってもらいながら、「仲良くやってくれているな」とか「納品して喜んでもらえているな」とか、一つ一つ成功体験を積み重ねていっている感じです。
- 柴田:
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やっぱりそこは、プロジェクト単位の付き合い方とは全然違いますよね。
- 岩崎:
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他人から親戚になったぐらいの距離感ですよね。ずっと付き合いが続くわけだから。
- 柴田:
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その感覚はすごくわかります。
- 岩崎:
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でも僕は、結局は経営者同士のハモりだと思っているんです。僕は前々職で、一従業員として企業同士の業務提携に携わったことがあるんですけど、結局は経営者同士の相性なんだなと学びました。なので最初に2社の社員交えた食事会を開いて、トップ2人の空気感をスタッフの皆さんにも徐々に浸透させていこうと考えたんです。
- 柴田:
-
僕もここの二人の関係性が大事だと思っています。僕たち自身の役割が、それぞれの組織の役割とほぼイコールだと思うから。実際、僕がちょこまか動いて、岩崎くんがドンと構えてくれている感じで……。
- 岩崎:
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いやいや、僕は逆の感覚ですよ(笑)。でも、だからこそうまく回っているんでしょうね。柴田さんのパート、僕のパートが明確になり始めて、自分の頑張るべき役どころがはっきりしてきました。
「コレクティブ型」と「インハウス型」のハイブリッド
ーお互いの見ている未来像、共通のビジョンなどはありますか?
- 柴田:
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そう言われてみれば、二人でビジョン云々の話をしたことはないかもしれないですね。むしろ今は、岩崎くんの言った通り「どうハモれているか」の方が大事かなと思っています。結局そこが続いていかないと、ビジョンも何もないので。
- 岩崎:
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僕も一度、ネーミングを提案した時にはビジョンめいた話をしたのですが、今それをあえて掲げようとしていないのは、まさにこのプロセスを楽しみたいからなんです。今いい感じに結果がついてきているので、このまま波に乗って行ったらどこまでいけるんだろう?と思っています。
ただ提携を始めてわかったのは、この業務提携は、案件ごとに社内外混成チームを組むマガザンの「コレクティブ型」と、社内で一気通貫するおいかぜの「インハウス型」のハイブリッドなんだなということです。案件ごとに集まるのでもなく、合併して完全に一緒になるのでもなく、その間で状況に応じて有機的に関わり続けることに意味があるんだろうな、と。つまり、ポテンシャルを秘めた若手からスーパースターまで社外パートナーと関係性を育み連携しながら、新規性や非連続な価値開発を重視するコレクティブ型と、品質の安定や中長期の伴走に効果的なインハウス型の使い分けです。変化の激しい時代において、芯を持ちつつどう柔軟に動けるか、ある種の生存戦略ですよね。
- 柴田:
-
本当にそうですね。
- 岩崎:
-
京都という土地で暮らしているのと、実家が農家をやっているからなのか、僕の中には「長くやるのがいい」という感覚が刷り込まれているんです。瞬間風速で測るのではなく、どうしたらこのプロジェクトが育つか、この事業や人が育つか、長い目で関わっていきたいと思ってきました。
でも、うちの会社はコレクティブ型がメインなので、長期で見ると少し不安定に感じていたんです。長くお付き合いする案件も増えてきている中、どう会社としての芯をしっかりさせるかというのが僕の悩みでした。だからインハウス体制をしっかり取られているおいかぜさんと組めるのは、ずっと欲しかった安定感を与えていただいた感覚でもあります。
- 柴田:
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僕の場合はおいかぜを20年続けてきて、そろそろ50代が見えてきた年齢なんですけど、今後会社をどうしていったらいいのか全然見えていなかったんです。いろんな人と一緒にやることも試してきたんですけど、その先もずっと続けていけるスタイルが結局見つからなくて。事業継承もバイアウトも現実的ではないし、一体どこに着地させたらいいんだろうなと。それが僕にとっての一番の不安だったんですが、今回の業務提携は長年の悩みに対する一つの答えのように感じています。
マガザンさんとはすでにさまざまなプロジェクトが走り始めていますが、これからもいろんなものが生まれるだろうなと想像しています。多分、この座組なら受けられない仕事はない。それくらい心強い気持ちになっていますね。
- 岩崎:
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僕もそうです。今後は、京都でクリエイティブなことをしたいと考えている人たちが、今まで以上に広い範囲で興味を持って携わってくれるようになったらいいですよね。極端に言えば、「自分はおいかぜに入ろうかな、マガザンに入ろうかな」って悩んでもらえるような状態が、僕らが目指すべき場所なのかなと思います。そしてまたビジネスと文化の融合が広がって、新しくて豊かな何かがつくれたら嬉しいですね。
業務提携に関するプレスリリース(2024年8月21日付)はこちら
▼株式会社マガザン
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000113309.html
▼株式会社おいかぜ
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000044133.html