2019.04.22

副産物特集 共同編集者インタビュー

「廃材」から「副産物」へ、新たな価値が生まれる瞬間。

Credit :
インタビュー・文 / 土門 蘭、 撮影 / 櫻井 隆成

『主役になる副産物たちとその新しい生態系について』
これが、今回のマガザンの特集名だ。

一読しても、わたしにはその意味がよくわからなかった。

「『副産物』って何だろう?」
「そもそも、何から生まれた『副産物』なんだろう?」

そんなことを思いながらマガザンに入る。
するとそこには、あまりにも無秩序な空間ができあがっていた。

何と呼んだらいいのだろうか。

色が塗られた木の板、よくわからないものが映っている写真、陶器の欠片、割れたレコード、舞台の小道具……。そんな、とにかくいろいろなもの。

そのどれもに、人が手を加えた形跡が明らかにある。

そして、中心にどんと据えられた「Take a Pay」という看板が掲げられた箱。おそらく、物と引き換えにここにお金を払うのだろう。

でも一体、ひとついくらなのか? と言うか、何を、何のために買えばいいのか?
わたしはその混沌の中で途方に暮れる。そして、ますますわからなくなる。

「『副産物』って、何だろう?」

今回の特集の共同編集者は、泊まれる展覧会『KYOTO ART HOSTEL kumagusuku』の店主・矢津吉隆さんと、フリーペーパーのお店『只本屋』の代表・山田毅さん。

お二人に共通することは、お店をやりながらアーティスト活動もされているという点だ。

画家の絵の具のついた道具、彫刻家の加工した素材、版画の試し刷り、陶芸の試作品……
作品の制作過程で生まれるそういった物たちは、これまではアトリエの隅で埃をかぶり、いずれ捨てられる運命にあった。

つまり、これまでそれらはただの「廃材」だったのだ。

店主でもありアーティストでもあるふたりは、その「廃材」に着目した。

これまで単なる「廃材」だったものを「魅力的な廃材」と捉え直し、「副産物」と命名。
2017年、京都のアーティストのアトリエから出る「副産物」を回収し、「副産物産店」で販売するというプロジェクトを開始したのだった。

マガザンの岩崎くんは岩崎くんで、ごく初期の段階からこの「副産物産店」をおもしろがっていたらしい。

「このプロジェクトにはおもしろい事業のすべてが詰まっている」
とまで言い、今ではこの「副産物産店」の事業計画立案まで担っていて、この特集に至る。

わたしはその話を聞きながら、
「廃材だったものが売り物になるってどういうことなんだろう」
ということをずっと考えていた。

「廃材だった」ということは、「価値がない」と見なされていたということだ。

だけど、まるで企みごとをする少年のような表情で、まったく新しいビジネスについて語る彼らには、きっとその“廃材”は誰も見向きもしなかった“宝の山”に見えている。

「『副産物産店』とはいったい何なのか」

そんなテーマで、わたしが聴き手となり、この鼎談は始まった。

物の価値とは何か?
人はなぜ、どのように、物を買うのか?
そして、どのように売ることが正解なのか?

もしかしたら「物を売る」ということの本質が、ここにはあるのかもしれない。

芸大の「ゴミ捨て場どうする?」問題から生まれた「副産物産店」

岩崎: 

それじゃあまずは、「副産物産店」の発起人のおふたり、矢津さんと山田さんのご紹介を。

矢津: 

矢津です。僕は京都で美術家として活動しながら、『KYOTO ART HOSTEL Kumagusuku』という、「泊まって鑑賞する展覧会」というコンセプトの宿泊型アートスペースをやっています。

山田: 

京都でフリーペーパー専門店『只本屋』をやっている山田です。只本屋はプロジェクトとしてやりながら、生業としては編集をしたり、展覧会を作ったり。作家として、映像表現・空間表現の制作もしています。

矢津: 

「副産物産店」というアイデアが動き出したのはこの1年くらいですかね。イベントに出店したり、期間限定でお店をオープンしてみたりというのをやってきていました。

今年はそれをもう少しちゃんとした形にしていこうと、このマガザンの裏側に、小さな工房兼店舗をつくろうとしています。2階に僕が住んで、職住一体の場所を作ろうかと。

今日はそもそも「副産物」とは何なのか。それをどう位置付けて展開していくのかという話を、していけたらいいなと思います。

土門: 

じゃあ、まずは「副産物産店」とは何か?ということから、教えていただけますか。

山田: 

そもそも「副産物産店」というアイデアが出たのは、京都市立芸大が2023年に京都駅の北東エリアに移転する計画があって、そこで矢津さんと僕がリサーチチームに入ったことがきっかけだったんです。

僕は今まさにその京都市立芸大の博士課程に通っているんですが、矢津さんは彫刻科の卒業生なんですね。それで縁あって、ふたりとも移転計画のリサーチチームに入ったんですが、その中で懸案事項として上がったのが、「ゴミ捨て場どうする?」ってテーマだったんですよ。

土門: 

ゴミ捨て場。

山田: 

矢津さんがいた頃からそうなんですけど、ゴミ捨て場っていったら大きなコンテナが一個ぼんとあるだけで、みんながんがん捨てているって感じなんです。そこに別の人がやってきて、自分の作品に使えそうなものを拾って持って帰っていくんですよね。

矢津: 

みんなお金がないので、素材としてゴミ捨て場にあるものを拾って帰るんですよ。

山田: 

もともと作品だったものや、作品に使われる予定だったものが、その人の事情で捨てられる。それが次の人の素材となり作品となる、っていう不思議な循環。それを僕たちは肌で感じていたので、その生態系を商品化したり、流通を変えたりできるのではないか?と考えたんです。それが「副産物産店」の始まりですね。

矢津: 

僕らの母校が移転して生まれ変わるときに、アーティストとしてどのように関われるのかっていうのを考えていたんですよ。それで、当事者だからこそわかるこのアーティストの生態系を、移転をきっかけに解決したり、おもしろく塗り替えていけるんじゃないかなと思ったんですよね。

山田: 

それであるとき矢津さんが、「芸大から出る副産物を物産店的に売りたいんだよね」っていきなり言いだして。「あーいいですね」「名前どうしようか?」「副産物の物産店だし、『副産物産店』でいいんじゃないですか」ってワンアイデアで。

土門: 

そのままですね(笑)。

矢津: 

そう。でもそのとき「副産物産店」の「てん」を「展覧会」にするのか「店」にするのかの議論はありました。僕らは「副産物」を売ってマネタイズしていくっていうのを作りたかったので、結局「店」にしたんですけど。

岩崎: 

ああ、大事ですよね。それ。

山田: 

僕たちは表現者でありながら「店」という空間も持っている。それが僕たちの特色でもあるから、やっぱり「展覧会」ではなく「店」なんじゃないの、と。それで「副産物産店」になったんです。

土門: 

芸大でごみ捨て場がそういう機能を果たしているというのは初めて知りました。でもそれって、学生やアーティストにとって何か問題があるんですか?

矢津: 

その問題に気づくのは卒業してからなんですよ。学校を出て、自分でアトリエを構えだしてから。

想像つかないかもしれないけど、作品がゴミになったりすることもあるんですね。発表したあとの作品が、何年もアトリエの一部を陣取っているとか。処分するのもお金がかかるし、そもそも、ミクストメディアで作られたものをどういうふうに処分したらいいのかすらわからない。

山田: 

町内のゴミ基準に当てはまらないですからね。

矢津: 

京都市指定の黄色い袋に入れたらいいのかな?みたいな(笑)。京都市のクリーンセンターでは、1000円で100kgまでゴミが出せるんですよ。だけど、ようわからんゴミっていうのは警戒されるんです。産廃なんじゃないか?みたいな扱いになるんで。

山田: 

そこでは「アーティスト」っていうものが認知されていないんですよね。

矢津: 

「引越しで……」って言ってもね。

山田: 

「引越しでこんなもん出ます!?」って怪しまれる(笑)。

土門: 

それはつらいですね。

山田: 

そこに世の中とのずれがあるんです。大学では何でも捨てられたのに、町内会で捨てられないものっていっぱいある。

矢津: 

大学ではコンテナに投げ込めばよかったからね。それがなくなっちゃうってことだから。で、困るっていう。まあそこから、「副産物産店」っていうアイデアが生まれたんですよね。

「副産物産店」には、おもしろい事業の要素が全部揃っている

岩崎: 

岩崎くんがこの「副産物産店」を知ったのって何がきっかけだったんですか?

岩崎: 

最初は『崇仁新町』ですよね。京都駅近くにある屋台村なんですけど、そこのプレオープンに、「副産物産店」が出店してたんです。

矢津: 

それが初めての出店かな。

岩崎: 

マガザンも、にぎやかしとしてそこのテナントに招ばれていたんです。僕たちは雑貨を売ってたんですけど、隣でなんか変なことやってるなあと。

矢津: 

やたらうちのことを「おもしろいおもしろい」っていう人がいるなと思ったら、岩崎さんで(笑)。僕らもリサーチがてらやってたんで、そんなふうに反応してくれる人がいて、しかも結構売れたし、「可能性あるのかな」っていうことは思ったんです。

土門: 

どうして岩崎くんは、そんなに「副産物産店」に反応したんですか?

岩崎: 

なんか、「副産物産店」って、おもしろい事業の要素全部揃ってるなって思ったんですよ。

ビジネス的な観点で言うと、物を売るって、いかに仕入れ値を下げるかが大事なんです。10円で仕入れたものを100円で売るよりも、1万円で売った方が儲けが出ますよね。それで言うと、「副産物産店」はもともと捨てられるはずだったものを商品にしているので、ほとんどタダ。

土門: 

なるほど。

岩崎: 

かつ、この「副産物」って他にないものじゃないですか。それを加工することで、既製品化もできてしまう。世の中の多くの人にわかる形にすることもできるんですね。しかもそれはECでも売れる。持続可能な要素が詰まっている。そういうのがワッて頭に浮かんで、ビジネス的にすごいなって。

あと単純に、アーティストの普段手に入らないものが手に入るっていう、コレクター的欲求にも火がつけられたのもあります。なのでずっと、第三者として「すごいすごい」って言い続けていましたね。

矢津: 

僕らもあそこまで「すごいすごい」って言われなかったら、続けなかったかも。

土門: 

それで「じゃあ『副産物産店』本格的にやろうか」と。

山田: 

とりあえず、いろいろなアトリエ巡って仕入れるか!みたいな。

矢津: 

最初は、いろんなアトリエからいらなくなったものをもらってきて、その売り上げの何%を渡すってふうにしようかと話してたんですけど。でも、その「いらなくなったもの」って定義もちゃんと決まってなくて、結構大事なものを引き受けてしまって困ったりとか。

土門: 

大事なもの……?

矢津: 

謎のサービス精神が出るんですよ、作家って(笑)。いいもの出してくれるんです。「これ、作品なんじゃない?」くらいの。

山田: 

僕らが行く前にアーティストさんに「副産物」を用意してもらうんですけど、用意してもらったものはだいたい引き取れなくて、そこらへんにあるゴミを漁らせてもらっていました。

土門: 

え!? そんなにですか。「それは残しておいたほうがいいんじゃないですか?」くらいのものを?

山田: 

そうでしたね。たとえば版画だったら、2番目に良く刷れたやつとか。1番良く刷れたのとの違いが、僕らにはわからないくらいなんですよ。「ここらへんかすれているじゃないですか」って言われても「えーわからないなー」くらいの。だけど「二番目のやつはいらないんですよ」って言われたりね。

矢津: 

本人「失敗」って言ってるけど、どこをどう失敗したのかわからないようなものとか。

山田: 

こっちも「それは……欲しいよねえ!?」みたいな(笑)。

矢津: 

欲しいけど、なんかそれは違う欲しさやな!」って。だからやりながら、「副産物」を定義づけていった感じなんですよね。そもそも「副産物」って何だろうと。

「副産物」ってそもそも何?

山田: 

版画だったり彫刻だったりペイントだったり、それぞれの技法ややり方で「副産物」も違っていて、僕らの想定していた以上に「副産物」にもいろいろあるってことがわかったんです。はじめは、そこでの戸惑いが大きかったですね。

土門: 

それで、その「副産物」の定義は決まったんですか?

山田: 

やっていくうちにこういう「副産物」がありえるんじゃないかなって例を出して、それらを4つのサブカテゴリに分けてみたんです。

  • 作品関連(試作品、失敗作品、廃棄作品)
  • 素材関連(木材、余った塗料、樹脂など)
  • モチーフ(映像作品の大、小道具など)
  • 道具関連(筆、塗料缶、ブルーシート、重しなど)
  • その他
山田: 

まず最初の「作品関連」っていうのは、構図や技法を定めるためのサンプル作品だったり、失敗作だったりですよね。あとは、元作品。たとえば矢津さんの「元作品」の場合だと、ちゃんとした作品だったんだけど、真っ白の樹脂が黄色くなっちゃったとかね。

土門: 

ああ。経年劣化ですね。

山田: 

そうです。アトリエを引っ越すときに、大きな作品を捨てることってよくあるんですよ。そういうものを引き取っています。

2番目が「素材関連」。たとえば何かの切れ端とか、木材の余ったのとか、混色した塗料とか。使い切れなくて余ったやつですね。

3番目の「モチーフ」っていうのは……たとえば、僕の知り合いを例に出すと、その人は鏡に映った絵画をペインティングするんですよ。だからまずは、鏡に映すための絵画を描くんです。

土門: 

へえー!

山田: 

この絵画は作品なの?って聞いたら、作品を描くためのモチーフだから作品じゃないって。

岩崎: 

あー、なるほど。難しいなあ。

山田: 

映像作家の人は映像に撮るための小道具なんかも全部つくるので、そういうのも副産物ですよね。あとは、「道具関連」。筆とか缶とか、基本道具は消耗品なので。

まあ、このカテゴリに含まれないものもあるけど、だいたい4つプラスαにおさまるのかなって結論に至りました。

「ゴミだったじゃん、さっきまで!」

土門: 

カテゴリ分けして、そのあとは仕入れていくわけですね。

岩崎: 

仕入れ方にも2種類あって、「買取型」と「委託販売型」があるんです。買取は仕入れのタイミングで買い切ってしまうパターン。委託は、売れたら売り上げの何パーかを作家に戻すパターン。

矢津: 

最初、委託でやってましたけど、それが地獄でした。大変やった……。

岩崎: 

まず、何が売れたか帳簿つけるのが不可能なんですよ。「この商品名、何?」っていう。だから、在庫管理ができないんです。

矢津: 

商品を指し示すことすらできないっていうね(笑)。

岩崎: 

だから今は暫定的に、「一箱でいくら」ってしていますよね。コンテナひとつで500円で買い切るっていう。

矢津: 

そう。「捨てるならお金かかるけど、こっちに引き渡してもらえたらお金がもらえるよ」って言って、仕入れています。

山田: 

買取にしたときも、先にこっちが価格を決めてあげないといけないんだなってことに、やりながら気づいたんですよ。仕入れに行って「これいいですね」ってふうになると、急に作家側が惜しくなることもあって、「ああーこれ思い入れあるんだよなあ!」ってなり始める(笑)。そうすると自然と値段も高くなってしまうので、「じゃあ1個1000円で……」とかってなると、こっちが厳しくなるんですよ。「ゴミだったじゃん、さっきまで!」って(笑)。

矢津: 

先方もどう値段つけたらいいかわからないですしね。

山田: 

だから、こっちが価格を決めた上で、それでもOKなものを出してもらうってふうにしたんです。その方が、仕入先との健全な関係が築ける。こちら側も、アーティストの思いを乗っけたものを受け取ったとしても、次に手に渡った人がどう使うかまではコントロールできないので。思いが込められたとたんに使いにくくなるんです

土門: 

1箱500円っていうのは、シンプルでわかりやすくていいですね。

矢津: 

そう。一律で仕入れたら、あとはこっちの自由だからね。いくらで売ろうが加工しようが。

たどり着いた「副産物産店」のビジネスモデル

岩崎: 

それで、定義や仕入れ方法なんかも見えてきて……崇仁新町のあとは、東九条や、映画館のみなみ会館でも出店したんですよね。

矢津: 

そう。それで、kumagusuku2号店で、実店舗を構えないかという話になったんです。

「副産物産店」で実店舗をつくったらおもしろいとは思ってたけど、さすがにこれだけで店をやるのは無謀なことだっていうのは僕でもわかってて(笑)。だけど、何かと抱き合わせることはできるなって思ってたんですよね。クマグスクには宿泊の施設があって、そこでお金がまわるから、ギャラリーとかイベントができる。好きなことをやるためにお金をかせぐ部分があるので、「副産物産店」もできるんじゃないかなって。

それで、クマグスクの2号店を作る計画が出たときに、1階部分の自由に出入りできる場所に「副産物産店」を当てはめることができるのでは?と考えたんです。

……となると、どう仕組化していくのかを考えなくてはいけなくなって、そこで岩崎さんに本格的に声をかけたって感じなんですよね。

岩崎: 

そうですね。僕も、「副産物産店」は可能性があるって思っているので、本気でやるなら本気で手伝いたいなと思いました。それで、このイラストにある「副産物産店」のビジネスモデルまで、ひとまずたどり着いたんです。

岩崎: 

赤い部分が仕入れ先、真ん中が「副産物」の加工をする場所。黄色い部分が、商品の出口であるECや直販、卸。それから、たとえば新店舗の内装を「副産物産店」が大工さんや工務店的に引き受けるなど、B2Bの仕事もできるんじゃないかと思っています。

このように数字におとして、納得のいく計画までこぎついたんですよね。

矢津: 

この計画書を銀行に見せたら、ちゃんと通ったんです。「副産物産店」を、よく銀行さんも通してくださったなと(笑)。

岩崎: 

ちなみに通してくださったのは京都信用金庫さんです(笑)。

土門: 

じゃあ今後はそのまま売るだけではなく、加工もしていかれるんですね。「副産物」を使ったプロダクトを作るという。

矢津: 

加工についてはすぐできる話ではないのですが、本格的にそこに入るまでの準備期間を作っていかねばということで、マガザンの裏に工房を作る予定でいます。

土門: 

このテーブルも加工品ですか?

矢津: 

そうです。これ、「副産加工品」です。

土門: 

「副産加工品」(笑)。

矢津: 

「水産加工品」とかけているんです。かまぼことかと一緒ですね(笑)。「副産物」を机や椅子といったプロダクトにすることで、価値を定めていく狙いなんですよ。

岩崎: 

「副産物」そのものだと相当マニアックなんでね。やっぱり、加工品の方がわかりやすいじゃないですか。だから、「副産加工品」がB2Cの部分でいちばんお金を作っていけるのではと思っています。

矢津: 

「副産物」の中には、どうしようもないものもあるんですよね。ベニア板や角材の余りとか、どこのアトリエからも出てくるスタンダードな廃材っていうのがあるんですけど、それをそのまま売るのはなかなか難しい。そういったただの廃材でも、加工することによって販売できるようになるなと思ったんです。

山田: 

ものを作る人って、「これ作れるんじゃないかな?」って思うもんなんですよ(笑)。これって何でできているんだろう?自分でも作れるかもな、って。だから作業場の椅子とかテーブルって、だいたい自分たちで作っちゃうことが多いんですね。そういうのをずっと近くで見ていたから出てきたアイデアでもありますね。

矢津: 

しかもそれ、「副産物」で作ってるんですよね。余った板で棚作ったり、椅子作ったり。そういうのは設計図とか描かないで、行き当たりばったりで作る。それもひとつの魅力だったりするんです。

人はなぜ「副産物」を買うのか?

土門: 

現状はどのように売っていっているのでしょう?

山田: 

「副産物産店」って珍しいんで、いろいろなところにお呼ばれすることがあるんですよ。それで、場所によって売れるものが違うんだっていうのが、だんだんわかってきたんです。

たとえばマルシェで売る場合と、芸大の中で売る場合では全然違う。前者では地域のおばさまたちが主なんですが、後者だと美術関係者が主なんですね。その2か所では、売れ方も値段も全然違うんですよ。

矢津: 

kumagausukuでも販売したんですけど、うちにはアート寄りの方がよく来られるんです。そういう方は、めちゃくちゃセンスのある選び方をされていきますね。

たとえばうちは建築家の方が来られることが多いんですけど、彼らは素材に着目して買っていく。アルミと石を組み合わせて購入するとか。人によって引っかかるポイントっていうのが、全然違うんです。

土門: 

人によって引っかかるポイント……いや、わたしがずっと気になっていたのは、人はなぜ「副産物」を購入するのか、なんです。マルシェにしても、芸大にしても、「これはあのアーティストの『副産物』だ」って思うから買うんでしょうか? つまり、アートの文脈を読んで買って行かれる方が多いのかな、と。

矢津: 

や、そんなことはないと思います。「副産物産店」にあるのは若手アーティストのものが中心なので、超有名っていうわけでもないし、文脈を読もうにも読みきれないんですよ。

だから、昔で言ったら「テレビの上の置物」みたいな感じで買われて行く方が多いです

土門: 

テレビの上の置物!

岩崎: 

あはは。フィギュアを並べるみたいな感じで。

矢津: 

そうそう。「これ、あそこに置いたらいんじゃないかしら」ってピンと来たら買う、みたいな。

山田: 

最近テレビ薄型になってきてしまってるんで、なかなか置けないですけどね(笑)。

岩崎: 

マガザンの受け付けに置いてあるペン立ては、矢津さんの副産物なんですよ。「穴が空いてるからペン立てになるな」って思って買ったんです。

土門: 

へえーそうなんですね。

山田: 

だからみんな、「副産物」の用途を探すんですよね。自分の家や生活とのつながりを探して、見つかったら買っていくって方が多い。

岩崎: 

普通、お店で売ってるものって、「あらかじめ用途が決まっているもの」ですからね。だから「副産物産店」は用途が決まっていない分、用途を探すセンス、美意識、好奇心が求められる

土門: 

なるほどなあ。いや、中には、陶器の割れた破片とかあるじゃないですか。「これは誰が何の用途で買ってくんだろう」みたいなことを思っていたんですよ。

矢津: 

陶器の割れたやつも、結構売れるんですよね。置いたらいい感じ、とか思ってるのかなあ……。

山田: 

でも、雑貨ってそもそも、もっと純粋に買ってませんでしたか? キーホルダーとか、何に使うのかわからない鍵とか。

土門: 

ああー、ありますね。使うあてのない砂時計とか。

山田: 

そうそう(笑)。

矢津: 

そういう、ささいな物欲っていうのかな。用途を超えた物欲ってあるじゃないですか。僕の家も、拾ってきた石とか結構あるんですけど、ああいうささやかな所有欲に近いんじゃないですかね。

土門: 

そうか。わたし誤解していました。「副産物」の背景のアーティストが見えるから買う、っていうようなものだと思ってたので。

矢津: 

いや、僕らもそう思ってましたよ。もちろん、そういう文脈を説明して売る方法もあるんですけど、ここでは難しいですよね。

岩崎: 

マガザンでも、ここにある大量の副産物をお客さんに説明しきれるわけがないので、ひとつひとつどういう出自なのかとか覚えられないんです。だからもう割り切って、質問されても「よくわかりません」って答えてるんですけど(笑)、そうなると買い方が「見えている情報だけで見立てる買い方」になりますよね。

土門: 

ここでは、買い手の直感に委ねている感じなんですね。

買う側に値段を決めてもらう実験

矢津: 

そして今はさらに、買う側に値段を決めてもらうっていう実験ですね。これまでは一所懸命一個一個に値段つけていたんですけど、マガザンでは値段をつけずに、お客さんに決めてもらっています。

土門: 

それもおもしろいですねえ。

岩崎: 

今、ここで売り始めて20日目なんです。これ(上写真)がお金を入れる箱なんですけど、賽銭箱的佇まいだと、明らかに「小銭入れればいいか」感が出るんですよ。それでせめてお札の絵を描こうと。「お札入れてもいいんだよ」感を出しました(笑)

土門: 

あはは。

岩崎: 

今は、「好きなだけとって好きな価格にしてください」という方法でやってるんですけど、この箱にお金を入れてもらうようにしていると、単価が100円くらいなんですよ。

矢津: 

それが高いのか安いのかもわからへんけどね……。

岩崎: 

もともと、違う場所で3万円で売っていた金の猫のオブジェとかあったんですけど、全然売れないままここにきて、フランス人に50円で買われていったり。

それで、単価あげる努力をしたほうがいいなっていうことになって、少なくともここにスタッフがいるときは対面で払ってもらうことにしたんです。

すると、人の心理って不思議ですよね。「いい感じのコミュニケーションをとりたい」とか「恥をかきたくない」とかがあるのかもしれないんだけど、単価が3倍になったんですよ(笑)

土門: 

へえー、ずいぶん変わってくるんですね。

岩崎: 

今、売れた総数が20日間で100個くらい。放ったらかしで、総額3万円くらいですかね。次、どこまでいけるかなっていう。

矢津: 

レイアウトによっても価格が変わってくるんですよ。ここではこのように、カオスに展示しているじゃないですか。でも今、「Ygion」っていう別の場所では、ソリッドなグレーキューブのかっこいい台座みたいなのに、さぞ高級なように一個一個展示しているんです。中身はここにあるのと一緒なんですけどね。だけどそっちでは、一個数千円とか値段つけてるんですよ。

岩崎: 

それで昨日、早速一個売れたんですよ。

山田: 

3千円で売ってた、蛸の脚みたいなやつなんですけどね。お客さん、「安い」って連呼してましたよ。

土門: 

へえー、蛸の脚……!?

岩崎: 

その方、コレクターの気がある方なんですよ。

矢津: 

コレクターの方は「こんな安くてええんですか」って言わはりますね。でもそういう方は買って帰ったあとに、「矢津さんの作品を買いました!」とかってSNSにあげたりされるので。それはちがうっていうのも、あるかな(笑)。

「副産物」の売り方、どうする?

岩崎: 

今度はまさに今の矢津さんの話になるんですけど、僕の役割としては、これを事業として続けていくための「売る仕組み」を考えないといけないんですよ。その中で、わかりやすく高く売れる方法としては「これはどういう作家さんのもので、どういう出自です」っていう情報を添えることなんですが、それが「副産物産店」のもう一個の論点なんですよね。

土門: 

それこそ、さっき言っていた「文脈で買う」ってことですよね。

岩崎: 

そう。でもそうすると、アーティストは「副産物」を「作品」として売っているわけではない、という問題が出てくる。

矢津: 

下手したら、「作品」よりも「副産物」の方に高い値段をつけるということも、可能っちゃ可能なんです。文脈さえ伝えきれば、高い値段をつけることもできるかもしれない。でも作家さんにも、「こういう売り方をされたらいやだ」ってところはあるはずですからね。そこには踏み込まないようにしたいんです。いやな思いはさせたくないので。

山田: 

例えばわかりやすい例でいうと、これはサウンドアーティストの八木良太さんっていう方のレコードなんです。でもそれを知らなかったら、ただの半分に割れたレコードじゃないですか。聴くことだってできないし。

八木良太さんっていう方の経歴や作品性の説明を受けたら、そこに価値が生まれる。でも、この「副産物」に八木さんの名前を背負わせるのが正しいのか?っていう。

岩崎: 

この加工したテーブルだって、何も言わないで売るよりも、「クマグスクの建築素材で作ったテーブルです」って言ったほうが明らかに値段上がるんです。でもこういうのをどこまでやるのか。

矢津: 

今マガザンでは、ここにあるものはこのリストに乗っている作家さんたちのものですよって、全体で指し示すことをやっています。自分で文脈を読む力を発揮しないと、特定の作家さんの「副産物」にまでたどり着けないっていう感じ。そこにはある種の遊び心がありますよね。作家のことを知れば知るほど、いいものをゲットできるみたいな。

岩崎: 

そういう粋な部分ももちろん大事なんですけど、売る側の立場としては、コンテクストマーケティングみたいなことをやらないといけないとも思っているんですよ。その着地をどうするかは、今議論中ですね。

土門: 

なるほど。

矢津: 

売り方としてはいろんな選択肢があるんですよ。作家さんと「副産物」を結びつけて、説明した上で売るっていう売り方ももちろんある。でもそれは無人では売れないから、ギャラリーみたいに対面式で売っていくやり方が向いています。その場合は売る環境を整えることが必要。ひとつひとつガラスケースに入れたりね。

でも、僕がやってみたいのは、山奥のわざわざ行かないといけない場所なんかに、めっちゃとんがった空間があって、そこに副産物があって……みたいな。

山田: 

すいません、地域で「ゴミ屋敷」って呼ばれている光景しか思いつかなかった(笑)。

矢津: 

(笑)

岩崎: 

矢津さんは、そうやってすぐ売りにくい方へ行くんですよ(笑)。値段とかも裏につけたがるし……。そうするとオブジェみたいに見えるから、売ってるかわからないですよ!って言うんですけど。

土門: 

そこは、考え方が正反対なんですか?

岩崎: 

正反対っていうか、僕は「これを事業として続けさせる」っていう役割としてやっているからね。議論を場に投げ続けないと、あとでただただ売れなかったらつらいんで。

矢津: 

僕は作家だからかな……すぐ山奥でやりたがるんです(笑)。

岩崎: 

僕は、「いやもう河原町でやろうよ」ってあえて言ってみたくなりますね(笑)。

「副産物」まで価値づけすることに対するジレンマ

土門: 

コンテクストマーケティングで売るにしても、値段のつけ方が難しそうですよね。

岩崎: 

ほぼ基準がないですからね。

土門: 

でも、プレミアをつけようとすればつけられそうな気もします。

矢津: 

だけどやっぱり、「高く売りたくない」っていうのがどっかにあるんですよねえ……。

土門: 

ああ、やっぱりあるんですか。

岩崎: 

それ、はっきり言ってますよね、最近(笑)。

山田: 

やっぱり僕らは表現者でもあるので、いろんなジレンマがあるんですよね。たとえば、有名な作家さんの「副産物」だったら高くできるのかな?とかって思うじゃないですか。そしたら今度は、「有名無名」の線引きをするときにジレンマを感じる。

きっと、僕らがこんなふうに「副産物」を網羅させたのって、価値付けをさせたくないところもあるんですよね。

矢津: 

作品の価格が人それぞれで違うのは、市場の原理じゃないですか。でも、「副産物」まで価値づけするってどうなん?みたいな。全部ゴミだって観点から見れば、全部ゴミなわけだし。

山田: 

「商売」の話と、「アーティストの環境を良くしていこう」っていう話が相容れないんです。だけどそこがおもしろい。

矢津: 

だから、絶妙なところを狙いたいんですよねえ。高く設定しても、売れなかったら意味がない。大儲けまでいかないとしても、売れてお店が回っている状況を作るまでは絶対やりたいなって。そこまでたどり着く「価値付け」をどうしていくか。

土門: 

なるほど。その絶妙な売り方を模索しているところなんですね。

矢津: 

たとえばギャラリーで、「作品」と「副産物」を一緒に売るっていうやり方もあるしね。「作品」とともに生まれた「副産物」として見せる。だって、「副産物」の話をするときには「そもそも何が『主産物』なの?」っていうのも大事になるから。

「副産物」から「主産物」にたどり着いて、アートに興味を持ってもらって、最終的には「主産物」である作品を買ってもらう流れがつくれたら、それはそれでいいかなとも思うし。

土門: 

ああ、それは確かに素敵な流れですね。

岩崎: 

まずは今後は、ここで「副産物」を使った椅子づくりっていうワークショップを開いてみたり、相性の良さそうなお店さんでポップアップをやらせてもらったりしようかなと思っています。

山田: 

アーティストさんたちにも、まだこの「副産物産店」の活動が伝えきれていないので。でも、アーティストが考えて始めたことなので、共感ポイントはありすぎると思うし、おもしろがってはくれると思う。だからまずは、「副産物産店」っていうものを定着させていきたいですね。

鼎談が終わったあと、お客さんたちが「副産物産店」に足を踏み入れ、さまざまな「副産物」を手に取り始めた。

「何に使うんですか?」と聞くと、みな一様に、「いや、何かに使えそうだなあって……」と、照れ臭そうに話す。

多分、ひとりひとりの頭の中には、その「副産物」の新しい価値がぼんやり見えているのだろう。

その価値は誰かから与えられたものではなく、自ら見出した価値だ。

だからこそ揺らぎがあるし、余白があるし、唯一無二でおもしろい。

それはもしかしたら、自分の感性を信じる、という行為なのかもしれない。

山田さんは言った。

「『商売』の話と、『アーティストの環境を良くしていこう』っていう話が相容れないんです。だけどそこがおもしろい」

ふたりの中には、「商売人」と「アーティスト」が同居している。実益を得ながらも、美意識も損ねない。そのギリギリのラインを行く「絶妙なところを狙いたい」と矢津さんは言っていたけれど、わたしにはその行為自体がアート的なように思える。

でもじゃあ、「アート」って何だろう?

わたしは「副産物産店」を子供みたいな眼で散策するお客さんの顔を見ながら思う。

揺らぎがあるし、余白があるし、唯一無二でおもしろい。「アート」というのはもしかしたら、自分の感性を信じる、という行為なのかもしれない、と。

矢津 吉隆

美術家 / kumagusuku代表

1980年大阪生まれ。京都市立芸術大学美術科彫刻専攻卒業。京都造形芸術大学ウルトラファクトリーディレクター。
京都を拠点として美術家として活動。並行して宿泊型アートスペースkumagusukuのプロジェクトを2013年から開始、2015年に中京区にKYOTO ART HOSTEL kumagusukuを開業。
また、レジデンス機能を持ったシェアスタジオの運営や作品制作のためのスタジオ兼住居をアーティストに貸し出す不動産プロジェクト「BASEMENT KYOTO」、アーティストのスタジオから出る廃材を副産物として流通させる資材循環プロジェクト「副産物産店」など、アーティストのインフラに関わる事業を展開。さらに、2017年からは母校である京都市立芸術大学の移転設計JVにリサーチチームとして参加している。

主な展覧会に「青森EARTH 2016 根と路」青森県立美術館(2015)、個展「umbra」Takuro Someya Contemporary Art (2011)など。2013年、AIRプログラムでフランスのブザンソンに2ヶ月間滞在。

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山田 毅

只本屋 代表

1981年 東京生まれ。
2003年 武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科卒業
2017年 京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻卒業
現在、京都市立芸術大学大学院博士後期課程在籍

映像表現から始まり、舞台やインスタレーションといった空間表現に移行し、ナラテイブ(物語)を空間言語化する方法を模索、脚本演出舞台制作などを通して研究・制作を行う。
2015年より京都市東山区にてフリーペーパーの専門店「只本屋」を立ち上げ、京都市の伏見エリアや島根県浜田市などで活動を広げる。
2017年に矢津吉隆とともに副産物産店のプロジェクトを開始。2019年春より京都市内の市営住宅にて「市営住宅第32棟美術室」を開設。現在、作品制作の傍ら様々な場作りに関わる。

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    土門 蘭

    1985年広島生、京都在住。小説家。インタビュー記事のライティングやコピーライティングなど行う傍ら、小説・短歌等の文芸作品を執筆する。著書に『100年後あなたもわたしもいない日に』『経営者の孤独。』『戦争と五人の女』。

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