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インテリア特集 共同編集者インタビュー | 掴みたい、触りたい。新しい「取っ手と箱」との関係性

インタビュー・文 / 土門蘭interiorfeature
Photograph by Natsumi Kinugasa

現在マガザンキョウトで開催中のインテリア特集「つかむ / 取っ手と箱と」。
その特集名の通り、マガザンでは今、いろいろな取っ手のついた箱や引き出しが展示されている。

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Photograph by Natsumi Kinugasa

箱と言えば、開けるもの。ただその箱、開けようとすると、「あっ」となる。
取っ手が、取っ手じゃないのだ。いや、取って開けることができるのだから、確かに「取っ手」ではあるのだけど。

キャンディ、スーパーボール、髪の毛、蛍光灯、ドロップ、ネジ式スイッチ……。
普段、取っ手としては使われていないけれど、確かに取っ手としても機能する物たちが、箱に取っ手として備わっている。

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Photograph by Natsumi Kinugasa

例えば、二階に展示中の引き出しのこの取っ手は、なんと〝上靴〟。
下駄箱から上靴を抜き取る、あの動きだ。何も考えずとも自然と手が動いて、掴んで、引いてしまう。その瞬間、学生時代の記憶が蘇る。下駄箱の埃っぽい空気とか、がやがやした感じとか。
三つ編みを引っ張る。飴玉をつまむ。スイッチをひねる。
日常生活のある動きが、そのまま取っ手を引く行為になり、箱が開く。その瞬間、「あっ」と記憶がふと蘇る。そして、箱の中には未知なる出会いがある。おもしろい。

この「取っ手と箱」を作ったのは、インテリア特集の共同編集者である、大貫茜さんと井ノ口志麻さん。取っ手は大貫さん、箱は井ノ口さんが作っている。
彼女たちのユニット名は「NESSHII」。あかねの「ね」と、志麻の「し」をとったのだそうだ。ふたりの名前から偶然現れたネッシーは、大貫さんいわく「誰も見たことがないのに、みんなその存在を知っている」存在。概念としての存在。ふたりの作品に、そのネーミングはとても合っているように感じる。

様々な「取っ手と箱」の中を歩き回り、つかんだり開けたりしているうちに、そもそもなぜ「取っ手と箱」なんだろう? という疑問が浮かんできた。どういう経緯でこれを作ったんだろう? そして、なぜインテリア特集なんだろう?
そんな様々な「?」をもって、NESSHIIの二人、そしてマガザンキョウト編集長・岩崎くんの三名に話を聞いた。

日常の中の「掴みたい」を取っ手に

ーいろんな箱が置いてありますね。どれも取っ手が違う。

岩崎(以下・岩):どうぞ、自由に箱を開けてみてください。

ーいいんですか? それじゃあこの、ミニカーの付いているものを……。

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Photograph by Natsumi Kinugasa
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Photograph by Natsumi Kinugasa

ーあ、これは上に持ち上げるんじゃないんだ。横に滑らせるんですね。

岩:そう、ふたに樹脂が埋め込まれているでしょ? すっと走ってく感じで。

ー本当だ。素材もすべすべているし、木目もまるで風のようで、疾走感のある箱ですね。箱に対して、「疾走感のある」って言葉を使ったのは初めてですが(笑)。
こっちはメロンの頭だ。つるの部分を持って開けるんですね。

岩:そうです。箱の素材が桐なんですよ。

ーなるほど、高級感がある。中にはぜひメロンが入っていてほしいですね。でもどれも空き箱なんですね?

岩:中には何も入れていません。今回見てほしいのは中身ではなくて、外側の「取っ手と箱」なので。でも、時々何かを入れて帰ってくれるお客さんもいますよ(笑)。この箱に自分だったら何を入れるだろう? って考えてもらうのも、おもしろいと思います。

ーこちらの取っ手は大貫さん、箱は井ノ口さんが作られているんですよね。

大貫(以下・大):そうです。私が取っ手を選んで。

井ノ口(以下・井):その取っ手を元に、私が箱を制作しています。

ー現在、大貫さんはデザイナー、井ノ口さんはここマガザンのスタッフとして働く傍ら、木工作家としても活動されているとのことですが、お二人はどちらで知り合ったんですか?

大:二人とも元々、アーティストの名和晃平さんが運営しているSANDWICHというアトリエで働いていたんです。そこで知り合ってグループ展を一緒にやっていたこともあったのですが、今回のこのマガザンでの特集をきっかけに、改めてふたりでユニットを組みました。なので、今回がNESSHIIとしての初の作品です。

ー大貫さんはデザイナーということですが、もともとは取っ手を作っていたのですか? 取っ手作家だったとか……?

大:いえいえ、そういうわけではなく(笑)。取っ手は、いろいろなアウトプット手法のひとつとして扱っています。
もともと大学では、デザインの概念について学んでいました。そこは、「私はプロダクト」「私はグラフィック」というように制作手法を限定するのではなくて、デザインの本質を考えて、それに合ったアウトプットを選んでいく、というやり方でした。学生時代に、そのアウトプットのひとつとして取っ手を選んだのが始まりです。

ー大貫さんのデザインに対する考え方がまずあって、それに最も適した表現として取っ手が選ばれた、という順序なんですね。そこにたどり着くきっかけは何だったのでしょうか?

大:初めて「取っ手」というキーワードが浮かんだのは、ホームセンターで買い物をしているときでした。壁にキャスターが固定されて展示されていたのですが、そばを歩いていたお客さんが、そのキャスターに自然と手を伸ばしてコロコロって転がすのを見かけたんです。それを見て、「触りたい」「掴みたい」という、自然に湧いてくる能動的な動きを感じて、これはいいなと思ったんですよね。
通常、取っ手のデザインを考える場合、「掴みやすい」取っ手を考えますよね。でもそれを見て、「掴みたくなる」「触りたくなる」という能動的な心の動きをデザインに活用できないかな? と考えて。その考え方で取っ手を作ってみようと思ったのが始まりです。

ーなるほど、「掴みやすい」のでなく、「掴みたくなる」取っ手。不要なものを削ぐのではなくて、感情を起こさせるものを持ってくる、という考え方なんですね。

大:はい。だから取っ手を作るにあたって、日常の中にすでにある関係性を、そのまま取っ手にするということを意識しています。誰もが日常生活の中で掴んだことがあり、つい「掴みたい」と思ってしまうものを見つけてくるんです。
例えば展示作品の中で、三つ編みの髪の毛を引き出しの取っ手として使っていますが、これは、「私と髪の毛」という、すでにできあがっている関係性を取っ手に活かしています。髪の毛を掴む行為が、そのまま取っ手を掴む行為となっているんですね。
だから、新しく作るというよりは、見つけていくという感覚が近いですね。取っ手にした動きが、日常の動きと呼応しているものを探して、ここに持ってきています。

ー確かにどれもつい触りたくなるものばかりですよね。
それに、取っ手によって、触った時の心の動き方は違うように思いました。例えば上履きの取っ手を掴んだら懐かしい気持ちになるし、キャンディの取っ手を掴んだら甘い味覚が呼び起こされたりする。記憶が呼び起こされる感覚があります。

大:物がすでに備えている本来の特性。それとは別の「取っ手」という機能を、新しく与えています。だから、その物に触れたときに感じる、心の動きも味わってほしいですね。

ーそうして見つけられた取っ手から、井ノ口さんが箱を考えると。

井:はい。「この取っ手だったらどんな箱がいいかな」って考えながら、材質、木目、形態などを選んで制作しています。例えばさっきのミニカーだったら、すっと走っていく動きを出せるように、すべりの良い箱を作っていますし。
逆にこの、テレビゲーム台にあるようなアーケードスティックだったら、やっぱりこのガリガリって回す感じを楽しんでほしいので、思い切り動かしても大丈夫なように、しっかりした安定感のある箱にしました。これ、試しに開けてみてもらえますか?

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Photograph by Natsumi Kinugasa

ー……あれっ、これ開けにくいですね……あっ、開いた! へえ、裏側はこんなふうになっているんですね。

井:その開けた時の「わぁ」っていうサプライズ感も味わってほしくて、わざと開けにくくしているんです。子供が思い切り遊ぶところをイメージしながら、よりわくわくできるようにと思って、こういう形状にしました。壊れないようにしているので、お子さんにもどんどん触ってほしいですね。

どんどん触って使ってほしいから「インテリア」

ーこの展示を見たときにまず思ったのは、これは「アート」作品ではないのかな? ということでした。だけど、今回の特集は「インテリア」なんですよね。そこが少し引っかかっていて。

岩:そうですね。特集名を何にするかについては、みんなでディスカッションしました。
それはきわめてマガザンらしい流れで、うちの編集の起点にあるのは「人」なんです。誰と一緒にやるか? がいちばん初めにあって、それから特集を決めていく。今回の特集は、まずは大貫さんという、「人」から始まりました。
もともと大貫さんとは共通の友人を通じて知り合ったんですが、ある時「私こういうのを作ってるんですよ」って、取っ手の作品を見せてもらったんです。それを見て、取っ手ってこんなにおもしろくなるんだなと感心して、ちょうどマガザンを作っている最中だったので、「うちの玄関の取っ手を作ってもらえませんか?」と依頼しました。それがこの、『OPEN THE SESAMI 〜開けゴマ〜』です。

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Photograph by Natsumi Kinugasa

ーごますり器なんですよね、これ。

岩:そう。これちゃんと回せるし、カリカリカリってごまをする音までするんですよ(笑)。この取っ手に触ったら、みんな笑顔になって入ってきてくれるんですよね。僕はこの取っ手がすごく気に入って、「今度、ニュー取っ手エキシビションをやりませんか?」ってずっと言ってたんです。

ーニュー取っ手エキシビション。そのときは、アーティストとしての展覧会を予定していた?

岩:はい。でも展覧会っていうと、「作品を見る」だけっていう、行為として静的な感じになってしまうともったいないなと思って。僕は彼女の作品を眺めるのではなく、この玄関の取っ手のようにどんどん触って使ってほしいなと思っていたので、そう考えたときに「インテリア」というキーワードが出てきました。「見る」のではなく、「使う」ものとして打ち出したかったんですよね。

大:そうですね。今回私たちの作っているものが取っ手のついた、箱と引き出しだったので、「インテリア」というキーワードが出てきたときにすっと入ってきました。だから箱もきちんと使ってもらえるものにしたくて、それで今回、木工作家である井ノ口さんと組んだんです。

ーなるほど。触って使うものとして作品と向かい合ってもらいたいから「インテリア」なんですね。
実は、インテリア特集で「取っ手と箱」と聞いたとき、何だか意外な感じがしたんです。原始的というか……。ただ、インテリアを最小単位にした場合、確かに最後に残るのは「箱」かもしれない、ということを思いました。例えば、店を持たない行商は、行李を持って移動しますよね。テーブルや椅子なんかは、外にある岩とか切り株とかで代用できるけど、箱だけは代用不可。だからどんどんインテリアをそぎ落としていった場合、「箱」が最終的に残るのかもしれないな、と思っていて。

岩:そうですね。「インテリア」というと、普通は照明とかソファとかを思い浮かべますよね。だけど、この「取っ手と箱」というきわめて原始的で単純なものから、新しい感覚や見え方が生まれるのがおもしろくて。触ったり使ったりしてもらいながら、その新しさも感じてもらいたいなと思っています。

アートとデザインのグラデーションの上にいる感覚

ー岩崎くんが書いた『インテリア特集編集途中記』にこんな文章がありました。


“充分なディスカッションの中から課題を明らかにし、その解決策となる取っ手と箱をつくっていくというアプローチを今回は取っている。その流れはまさにデザイン的でありつつ、使い手に気づきと違和感を与えるというアート的な要素も持ち合わせていると思う”

岩崎くんはここで、「デザインは課題解決」「アートは問題提起」と定義していますよね。
確かに今回の作品は、箱を開ける時に生じるハードルを、取っ手が乗り越えてくれるようにも感じて、そういう意味では「課題解決」だなって思ったんです。でも、こっちに何らかの感情を呼び起こし、新しい価値観を見せてくれるところは「問題提起」としても捉えられる。大貫さんと井ノ口さんの中で、どちらをやっている感覚が強いのでしょうか?

大:アートとデザイン……この違いについては私も学生時代からずっと考えてきたのですが、結論としては「わからない」なんです(笑)。ただ、アートとデザインは「ここからアート」「ここからデザイン」と線引きできるものではなくて、グラデーションで繋がっているような気がします。
私は作品づくりに対して、客観的な要素を色濃く受ける、デザインという制約を受けつつも、自分の見つけた新しい観点を打ち出していく、アート的な要素も取り入れたいと思っています。デザインとアートの混じるところで、制作をしていきたいなと。

井:私はこれまでアートとして作品を作ってきました。私にとってアートとは己の感覚や感情が主体のものなので、それを実体化して他者とコミュニケーションしたい時、上手く言葉で説明することができないことが多くて。そこで、「アートです」という言葉を逃げ句にしてしまいがちなんですが、それでは根本的な部分でコミュニケーションできたことにならない。作家として次のステップに進むには、他者に伝えるための共通言語としての何かを見つける必要があると感じていました。
そうして自分に合った手法を探す中で、今回は「あくまで取っ手のための箱」を、シンプルな構造で制作することに取り組みました。闇雲に感情に任せたり、特別な技法にとらわれることなく、一旦基本の木工に立ち返る事が、自分には必要だと感じていて。その制限の中で、どれだけ自分の頭で考えて工夫できるのか、そこに自分の色がどうでるのかということを確認したかったんです。
人の生活の中で、デザインされた道具が自然とコミュニケーションを生んでいる状態が、私の目指すアートでのコミュニケーションの理想に近いと思っています。私は今後もアート作品を作っていきたいと思っていますが、そういった意味でデザインは無視できない存在というか、一生片思いの恋人のような気がします。
そういう意味では、私もグラデーションの中間地点にいるのだと思うし、そういう二人が一緒に作品を作ったらおもしろいものができそうだね、と、組んだときに話しました。

ーなるほど。それぞれの思惑でアートとデザインのグラデーションの上にいる、そんなおふたりの化学反応が、確かにNESSHIIの作品にも表れていると感じます。

今後の「取っ手と箱」について

ーインテリア特集は今月末までということですが、今後のイベントの予定などは?

大:6月11日に「取っ手と箱」を作るワークショップを行う予定です。私たちがこの作品を作ったプロセスを実際に体験してもらって、持ち帰ってもらえるようなワークショップにしたいなと思っています。

井:その他の日も展示を行っているので、来ていただいた方にはとにかく開けて、触ってほしいですね。その時にどう感じるか、取っ手を掴んで箱を開けたときの、新しい感覚を楽しんでほしいです。

岩:大貫さんには、マガザンの中の取っ手をジャックしていってもらおうと思っていて、特集が終わった後もずっと使っていけるような作品が、ここに残る予定です。それも含め、楽しんでいただけたらと思います。

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【プロフィール】
大貫茜
1988年東京生 / 東京在住。デザイナー。
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科でデザインの概念について学んだ後、SANDWICHに就職。現在はフリーのデザイナーとして活動中。今夏、ロンドンへ留学予定。

井ノ口志麻
1986年京都生 / 京都在住。木工作家。
京都教育大学で美術教育について学んだ後、東京藝術大学の大学院にて木工芸を学ぶ。SANDWICHにてプロダクト製作に携わった後、マガザンキョウトにジョイン。スタッフとして勤務する傍ら、作家活動も行っている。

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